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福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >カニに負けたネコ

第 19話

カニにまけたネコ

カニに負けたネコ

♪音声配信(html5)
朗読者 : ひろりん

 むかしむかし、一匹のネコが川のそばの道を急いでいると、その前をカニがのっそりのっそり歩いていました。
「こら邪魔だ。早く歩かないと踏み潰すぞ!」
 ネコがイライラして怒鳴りつけると、カニはハサミを振り上げて言いました。
「早く歩こうが、遅く歩こうが、おらの勝手だろう!」
「何、足が遅いくせに、偉そうな事を言うな!」
「はん。どっちの足が遅いか、比べてみなくちゃ分からないだろう?」
「何だと、お前がわしより足が速いと言うのか」
 ネコは、すっかり腹を立てて言いました。
「よし、それなら、向こうの森まで駆け比べをしよう」
「いいとも!」
「では、よーいどん!」
 ネコは尻尾を振り上げると、全速力で駆け出しました。
 でもその時、カニはネコの尻尾に飛びついていたのです。
 ネコはそれに気づかず、カニを尻尾にぶら下げたまま、あっという間に約束の森へ到着しました。
「ふん、どんなもんだい」
 ネコは後を振り向きますが、カニの姿は見えません。
「ここへやって来たら、本当に踏み潰してやるから」
 すると、ネコの尻尾につかまっていたカニが、ヒョイと飛び降りて、後ろから声をかけました。
「遅かったな。おら、さっきから待っていたんだぞ」
 ネコがビックリして後ろを振り向くと、何とカニがいるではありませんか。
「あっ! お前、いつの間に」
「だから言っただろう。おらに比べたら、ネコの足なんてカメより遅いくらいだ」
「くっ・・・」
 ネコには、言い返す言葉もありません。
「わかったら、頭を下げて謝れ!」
 カニが威張って言うと、ネコは仕方なく頭を下げました。
「カニの足が、そんなに速いとは知りませんでした。それなのに偉そうな事を言って申し訳ない」

 それからと言うもの、ネコはカニの姿を見かけると、カニが横切るまでジッと待つ事にしたそうです。

おしまい

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