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第 39話
右手を出した観音像
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読
【大人もぐっすり眠れる朗読】日本昔話やまんば特集 元NHKフリーアナ 優しい女性の声で読み聞かせ
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制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、ある山の中に恐ろしい山姥(やまんば)が住んでいました。
この山姥は、いつも赤ん坊の泣きまねをして歩きます。
(おや、赤ん坊が泣いているぞ)
そう思って村人が泣き声の方に近づいて行くと、山姥はいきなり姿を現してその人を食べてしまうのです。
だから村人は怖がって、この山へ行こうとはしませんでした。
さて、この山のふもとの村に卯平太(うへいた)という力持ちの男がいて、
「悪い山姥は、おらが退治してやる」
と、一人で山を登って行ったのです。
山を登ってしばらくすると、どこからともなく赤ん坊の泣く声がします。
卯平太が急いで泣き声のする方へ行ってみると、一人のおばあさんが立っていました。
「ばあさん、こんなところでどうした?」
卯平太が声をかけると、おばあさんはとてもこまったように言いました。
「はあ、村へ帰る途中、道に迷ってしまって」
卯平太は子どもの頃から村に住んでいますが、こんなおばあさんは見た事がありません。
(ははん、こいつが山姥だな)
正体に気づいた卯平太ですが、なにくわぬ顔で言いました。
「それは大変だな。よし、おらが村までおぶってやる」
「ありがたい」
山姥はニヤッと笑うと、卯平太の背中におぶさりました。
すると卯平太は、山姥の両手をぎゅっとにぎりしめました。
「さあ、いくぞ!」
卯平太は山姥を背おったまま、ドンドン山をくだっていきます。
山姥は両手をしっかりとにぎられているので、何も出来ません。
山の下まで来ると、山姥がさけびました。
「おろしてくれ。手をはなしてくれ!」
「いやいや、村はまだ遠い」
卯平太はそう言って、山姥を自分の家まで連れて行きました。
そして家に飛び込むと戸や窓をしっかりとしめ、いろりの火を大きくしました。
それから山姥をおろすと、大きく燃えているいろりの中へつきとばしました。
「あち、あち、あちちちち!」
山姥はあわてていろりから飛び出して、家の中を逃げまわりました。
「山姥め、もう逃がしはしないぞ!」
卯平太が飛びかかろうとしたとたん、山姥の姿がフッと消えました。
「どこへ行った!?」
卯平太が部屋中を調べると、いつの間にか仏壇(ぶつだん)の観音さまが二つにふえています。
(さては山姥め、観音さまに化けおったな)
でもどっちが本物で、どっちが山姥かわかりません。
(こまったな、もし本物の観音さまをこわしてしまったら、ばちが当たってしまう)
しばらく考えていた卯平太は、わざと大声で言いました。
「そうだ! 観音さまに、アズキご飯をそなえるのを忘れていた。うちの観音さまはふしぎな観音さまで、アズキご飯をそなえるとニッコリ笑って右手を出すからな」
そしてアズキご飯を、仏壇にそなえるとどうでしょう。
観音像のひとつが、ニッコリ笑って右手を出したのです。
「ばかめ!」
卯平太はその右手をつかむなり、力いっぱい投げつけました。
観音像はみるみる山姥の姿になって、腰をさすりながら逃げ出そうとします。
「今まで、よくも村人を食ったな!」
卯平太はじまんの力で、山姥をやっつけました。
こうして村人たちは、安心して山へ行けるようになったのです。
おしまい
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