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第 63話
トラニャのお経
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
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投稿者 癒しのココロちゃんねる 【睡眠用朗読】
むかしむかし、ある貧乏寺に、和尚さんと年を取ったネコが住んでいました。
小さなお寺だったので、この辺りの人はお葬式があっても他の和尚さんに頼んでしまいます。
おかげでお寺は、ますます貧乏になっていきました。
そんなある日の事、ネコが人間の言葉で和尚さんに言いました。
「和尚さん、和尚さん。
近いうちに、長者の娘さんが亡くなりますよ。
わたしが和尚さんに葬式を頼まれる様にしますので、その時は難しいお経を唱えず、ただ、『トラニャ、トラニャ』とだけ唱えてください」
それから数日後、ネコの言った通り、長者の娘さんが亡くなったのです。
それを聞いた和尚さんは、心の中で大喜びです。
(人様の不幸を喜んではいかんが、これで少しは金回りが良くなるだろう)
ですが長者は貧乏寺の和尚さんには葬式を頼まず、もっと大きなお寺の和尚さんに葬式を頼んで立派なお経を唱えてもらう事にしました。
やがてやって来た大きなお寺の和尚さんが立派なお経を唱えようとしたとたん、死人を入れた棺がフワフワと天井にまで浮き上がってしまったのです。
「ややっ、これはどうした事だ?」
大きなお寺の和尚さんはあわててお経を唱えましたが、いくらお経を唱えても浮き上がった棺は降りてはきませんでした。
それから長者は、あっちのお寺、こっちのお寺、そっちのお寺、むこうのお寺と、色々なお寺の和尚さんにお葬式を頼みましたが、どの和尚さんがお経を唱えても棺はフワフワと浮き上がったまま下に降りてはこないのです。
「困った事じゃ。このままでは葬式が出来んぞ」
その時、長者はふと、貧乏寺の和尚さんの事を思い出したのです。
「大きなお寺の和尚さまでも無理だった事が、あの貧乏寺の和尚に出来るとは思えんが、・・・まあ、試しに頼んでみるか」
そこで長者は使いの者を貧乏寺にやって、和尚さんにお葬式を頼んだのです。
貧乏寺の和尚さんは喜んでお葬式を引き受けると、フワフワと浮き上がった棺の前に進み出て、ネコに言われた通り、
♪トラニャ、トラニャ、トラニャ、ニャ
♪トラニャ、トラニャ、トラニャ、ニャ
と、楽しげにお経を唱え始めたのです。
それを聞いていた他の和尚さんやお客さんたちは、このおかしなお経にクスクスと笑い始めました。
(やはり、貧乏寺の和尚には無理か)
長者がそう思っていると、他の和尚さんがどんなにお経を唱えても降りてこなかった天井の棺がスーッと下に降りてきたのです。
「おおっ、棺が降りてきたぞ!」
こうして貧乏寺の和尚さんは無事にお葬式を済ませて、喜んだ長者からたくさんのお布施をもらいました。
その後、その事が評判となって、貧乏寺の和尚さんはあちこちから法要を頼まれるようになったそうです。
おしまい
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