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第 66話
小さな犬
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、ある小さな山寺に一人のお坊さんが住んでいました。
このお寺では夏になると蚊やノミがたくさん出てくるので、お坊さんはどうにもねむる事が出来ません。
ある晩の事。
(今日も、蚊やノミでねむれんわい)
お坊さんが蚊やノミを手で追い払いながら、ぼんやり寝ころんでいると、
ヒヒーン。
と、どこからか小さく馬のいななく声が聞こえてきたのです。
(はて? こんな山奥に馬がいるはずは)
お坊さんが寝ころんだまま辺りを見回すと、いつの間にやら部屋の中に小さな小さな馬がいたのです。
その馬の背中には、小指よりも小さな人間が乗っていました。
大きさは小さいですが、その人間は狩りに出かける姿をした立派な武士です。
その肩には小さなハエの様なものが、ちょこんと乗っていました。
(これは?)
よく見ると、何とそれは一羽のタカでした。
小さな武士は馬の手綱を引いて座敷の中を一回りすると、どこかへ「おいでおいで」と手招きをしました。
するとまた一人の武士が、馬に乗って現れたのです。
この武士も、狩りに出かける姿をしています。
けれどこの武士はタカではなく、馬の後ろにアリほどの小さな犬を一匹引き連れていました。
(わしは、夢を見ているのか?)
お坊さんがのんびり見ていると、二人の武士さっきと同じ様にどこかへ「おいでおいで」と手招きをして、手招きをする度に小さな馬に乗った武士がどんどん集まって来ました。
その武士たちは、みんなタカや犬を連れています。
やがて武士たちは、何百人となりました。
そして最初に出てきた武士が手を高くあげると、耳に聞こえない声で何か命令をくだした様子です。
すると何百というタカや犬が、いっせいに飛び出しました。
タカはブンブンと飛んでいる蚊を見つけては、するどい爪で捕まえます。
犬たちは小さな体でたたみのすき間にもぐり込むと、たたみの中にいたノミを追い立てて捕まえます。
逃げ回る蚊とノミを相手に、タカと犬は大活躍です。
(やはりこれは、夢だな)
お坊さんは寝たふりをしながら、それらの様子を見ていました。
やがて辺りが静かになると、どこからともなく黄色の衣と金の冠をかぶった立派な人が小さな牛車に乗って現れました。
その姿を見ると、何百人という武士たちは一人残らずそのまわりに集まりました。
そして次々とあゆみ出ては、捕まえたノミや蚊を両手に高々と差し上げて、得意そうに何かを言っています。
全員の武士たちが捕まえた獲物を差し上げると、やがて立派な人は牛車に乗ったままま空中へ舞い上がりました。
すると武士たちも馬にまたがり、牛車に続いて空中に舞い上がると、どこかへ消えてしまったのです。
お坊さんは、ゆっくりと体を起こしました。
「何とも、不思議な夢を見たものじゃ。・・・うん?」
ふと気がつくと、不思議な事に、あれほどいた蚊やノミが一匹もいないのです。
「もしや、夢ではなかったのか? しかし、そんな事が? ・・・おや?」
ふと足元を見たお坊さんは、あの武士たちが連れていた小さな犬が一匹、取り残されているのを見つけました。
お坊さんは犬をつまみあげると、いつも使っているすずり箱の中に入れて小さな犬を飼うことにしました。
ところでこの犬は、ご飯をやってもくんくんとにおいをかぐだけで、いっこうに食べようとしません。
でもノミやシラミを見つけては捕まえるので、やがてこのお寺からはノミやシラミは一匹もいなくなったそうです。
おしまい
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