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第 69話

竜宮女房

竜宮女房

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 癒しのココロちゃんねる 【睡眠用朗読】

ささずんと昔話講座 第16話【絵姿女房】

読者の「NS.MOOOON」さんの投稿作品。

知っているようで知らない日本昔話を、ゆっくりの解説でずんちゃんとささらちゃんが学んでいく動画です。

 むかしむかし、病気の母親と暮らしている、とても貧乏な若者がいました。

 ある日の事、病気の母親においしい物を食べさせてやろうと若者は山で花を摘んで町に売りに行きましたが、いくら売り歩いても誰も花なんか買ってくれません。
「ああ、一つも売れなかった。こんな物、家に持って帰っても仕方がないか」
 そこで若者は売れ残った花を、海へ投げ捨てて言いました。
「売れ残りで悪いけど、どうぞ竜宮の神さま、花をお受け取り下さい」
 すると波間から、一匹の海亀が出てきて言いました。
「あなたの贈り物、確かに受け取りました。実は竜宮では、花を切らして困っていたのです。さあ、お礼に竜宮へご招待しましょう」
 海亀はびっくりする若者を背中に乗せて、海の底へと潜っていきました。

 海亀は竜宮へ行く道中、若者に言いました。
「もし帰ると言ったら竜神さまはあなたに『土産は何がいいか?』と、おたずねになるでしょう。
 そうしたら『娘さんを嫁にほしい』と言うんですよ。
 それであなたは、幸せになるでしょう」

 竜宮につくと、竜神をはじめ、美しい人魚や魚たちが珍しい食べ物やお酒を用意して若者を歓迎してくれました。
 夢の様なもてなしに、気がつくと三日が過ぎていました。
「あの、実は村に病気の母親を残しているので、そろそろ帰ります」
 若者がそう言うと、海亀が言った様に竜神が言いました。
「それなら土産を持たせよう。なんなりと申すがよいぞ」
 それで若者は、海亀に言われた様に言いました。
「娘さんを嫁にください」
「わかった。お前の様な心優しい若者なら、喜んで娘を嫁にやろう」
 こうして竜神は、本当に娘を若者の妻にしてくれたのです。

 若者が妻を連れて家に帰ると、家の周りに大勢の村人たちが集まっていました。
「おや? 一体何があったんだ?」
 若者が聞いてみると、隣の家の人がびっくりして言いました。
「あんた、三年もの間、どこへ行っていた! ついさっき、あんたのおっかさんが息をひきとったんだよ!」
「三年?」
 なんと竜宮で過ごした三日は、地上では三年だったのです。

 若者は死んだ母親に取りすがると、わんわんと涙を流して泣きました。
「おっかあ、すまんかった。おらが、おらが早く帰らなかったばかりに!」
 すると妻になった竜神の娘が、竜宮から持ってきた袋の中から竜宮の宝である『生きむち』を取り出して言いました。
「あなた。泣くことはありませんよ。これを使えば、お母さまは生き返ります」
 そして妻は『生きむち』で死んだ母親の体を三回叩いたのです。
 すると不思議な事に死んだ母親が生き返り、しかも病気まで治っていたのです。
 それから竜神の娘は袋から『打出の小槌』を取り出して、あばら屋だった家を立派なお屋敷に変えてくれました。

 そんな竜神の娘のうわさが、お城の殿さまの耳に届きました。
「人が生き返る『生きむち』や欲しい物が出てくる『打出の小槌』か。
 うむ、その宝も竜神の娘も、わしの物にしたいのう」
 そこで殿さまは、若者にとんでもない事を命令したのです。
「明日までに千石の米を持ってこい。出来なければ、お前の女房を差し出すのじゃ」
 殿さまの無茶な命令に若者が途方に暮れていると、竜神の娘の妻がにっこり微笑みました。
「あなた、心配することはありませんわ。千石のお米は、実家から取り寄せましょう」
 こうして妻は竜宮から千石の米を取り寄せると、殿さまの前に並べて見せたのです。
「確かに、千石の米だ」
 これには殿さまは驚きましたが、でもニヤリと笑うと言いました。
「お前は、よほどの長者とみえるな。
 では明日、家来を全員連れてお前の家に行くから、酒と料理を用意しておけ。
 いいか、少しでも足りなかったら、お前の女房を差し出すのじゃ」

 次の日、殿さまは家来に自分の服を着せて行列の先頭に立たせ、自分は家来の服を着て行列の一番後ろに隠れて若者の家に行きました。
 もし若者が殿さまを間違えたら、それに文句を付けて竜神の娘を自分の物にしてやろうと思ったのです。

 やがて殿さまの行列がやってくると、妻は先頭にいる殿さまの様子がおかしいとすぐに気づき、それで行列の一番後ろで偉そうにしている家来に近づいて言いました。
「お殿さま、ようこそおいで下さいました。皆さま方全員分のご馳走の準備がととのっております」
「・・・くっ、やりおるわ」
 いたずらを見破られた殿さまは、ますますこの娘が欲しくなって言いました。
「では次に、百人の男女を集めて踊らせろ」
「はい。承知しました」
 そこで妻が竜宮から持ってきた手箱を開けると、中から百人の男女が現れ出て、笛や太鼓でにぎやかに踊り始めたのです。
「・・・うむ。確かに百人の男女だ。それでは次は、千人の荒武者たちを出してみろ」
 殿さまが調子に乗って、またまた無理難題を命じました。
 すると娘は、心配そうな顔で殿さまにたずねました。
「あの、本当に千人の荒武者たちを出してよろしいのですか?」
「かまわん。はやく出してみろ。いいか、一人でも少なかったら、お前をわしの物にするぞ」
「・・・では、出しますね」
 妻は再び手箱を開けて、中から千人の荒武者たちを出しました。
 その荒武者たちの大将は、殿さまを見るとこう言いました。
「やや! こんなところに敵の大将がいるぞ。皆の者、敵を討ち取るのだ!」
 それを聞いて、殿さまはびっくりです。
 殿さまはあわてて家来たちをまとめると、どこかへ逃げてしまいました。
 それを見て、妻は若者ににっこり微笑みました。
「さあ、あなた。
 お殿さまは荒武者たちに追われて、もう二度と帰ってはこないでしょう。
 今日からこの国のお殿さまは、あなたですよ」

 こうして若者はこの国の殿さまとなり、母親や妻と一緒に幸せに暮らしたのです。

おしまい

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