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第 78話

乙姫様のくれたネコ

乙姫様のくれたネコ

日本語 ・客家語 ・日本語&客家語

客家語 : ケ文政(ten33 vun55 zhin11)

 むかしむかし、三人の娘を持ったお百姓(ひゃくしょう)さんがいました。
  三人とも、とっくに嫁いでいたのですが、どういうわけか一番上の娘だけはひどい貧乏暮らしで、その日の食べ物もあるかないかの有様です。
  お百姓さんは毎年暮れになると、三人の娘の婿を呼ぶ事にしていました。
  妹二人の婿は金があるので、お土産に酒やら炭俵(すみだわら)をたくさん持って来ます。
  お百姓さんも、おかみさんも大喜びで、
「よう来た、よう来た。さあ、遠慮無く入りなさい」と、言いながら、ごちそうを出してもてなしました。
  ところが姉婿は金がないので、いつも山から取って来たしばの束をかついで行き、
「たきつけにでも、して下さい」と、言いました。
(ふん。こんな物しか、持って来れらないのか)
  お百姓さんもおかみさんも馬鹿して、姉婿にはただの一度もごちそうを出した事がありません。

  さて、今年も年の暮れになり、三人の婿たちがお百姓さんの家へ呼ばれる事になりました。
  相変わらず、しばの束しか持っていけない姉婿は、家を出たものの、どうしてもお百姓さんの所へ行く気がしません。
(どうせ持って行って馬鹿にされるだけだ。それなら、乙姫(おとひめ)さまに差し上げた方がましだ)
  姉婿は海辺に行くと、
「竜宮(りゅうぐう)の乙姫さま、おらのお歳暮(おせいぼ→年の終わりに贈る贈り物)にもらって下さい」と、言って、海の中にしばの束を投げ込みました。
「・・・さあ、家に帰るとするか」
  姉婿がそのまま家に帰ろうとすると、ふいに海の中から美しい女が出て来て言いました。
「ただいまは、結構(けっこう)な物をありがとうございました。乙姫さまがお礼をしたいそうですから、わたしと一緒に来て下さい」
  姉婿は、ビックリです。
「と、とんでもない。おらあ、お礼なんかいらねえ。それに泳ぐ事も出来んし」
「大丈夫ですよ。わたしがおんぶしていきますから、目をつむっていて下さいな。さあ、遠慮せずに、わたしの背中に」
  女が親切に進めるので、姉婿は仕方なく女におぶさって目をつむりました。
  その途端、気が遠くなって何が何だかわからなくなりました。
「さあ、お疲れさま。着きましたよ」
言われて目を開けると、何と立派な座敷(ざしき)に座っているではありませんか。
目の前には山の様なごちそうがあり、美しい音楽まで聞こえてきます。
「ささっ、どんどん召しあがれ」
  女のついでくれるお酒を飲んだ姉婿は、思わずうなりました。
  こんなうまい酒は、今まで飲んだ事がありません。
  それにごちそうも信じられないほどのうまさで、まるで夢を見ている気分です。
  姉婿がウットリしていると、女が小声で言いました。
「乙姫さまが何かあげようと言われたら、『何もいりませんが、ネコを一匹下さい』と、言いなさい」
(でも、貧乏だからネコなんかもらっても、育てられるかな?)
  姉婿が考えていたら、乙姫さまが天女(てんにょ)の様な羽衣を着た女たちを引き連れて座敷にやって来ました。
「贈り物をありがとうございます。お礼を差し上げますので、何でも欲しい物を言いなさい。もし望みの物がなければ、玉手箱(たまてばこ)などは、・・・」
(玉手箱なんて、とんでもない!)
  姉婿は、大きな声で言いました。
「ネコを一匹下さい!」
「まあ、ネコをくれですって?
・・・でも、あなたの望みとあらば仕方ありません。
いいですか。
  竜宮のネコは一日にアズキ一合を食べさせると、一升(いっしょう→一合の十倍で約一・八リットル)の小判を生みます。
  どうぞ、いつまでも可愛がって下さいね」
  乙姫さまはそう言って、可愛いネコを一匹くれました。
  姉婿はネコを抱いて、さっきの女の背中につかまりました。
  目をつむると気が遠くなり、目が覚めた時には元の海辺に立っていて、一匹のネコを抱いていました。
  姉婿は大喜びで家に戻ると嫁さんに訳を話し、とっておきのアズキを一合食べさせました。
するとネコのお尻から、
♪チャリーン ♪チャリーン と、小判がドンドン飛び出して来て、見る見るうちに一升分ほどになりました。
  姉婿はその小判で大きな魚やら高価な着物を買い込み、それを持ってお百姓さんの家へと行きました。
「どうして、こんな高価なものを?」
  お百姓さんもおかみさんも飛び上がるほど喜び、姉婿に初めて酒やごちそうをふるまいました。
「それにしても、しばの束しか持って来られないお前が、どうやって金持ちになった?」
  二人が聞くので、姉婿は乙姫さまからネコをもらった事を正直に話しました。
「何と、竜宮のネコだって!」
  欲の深いおかみさんは、急にそのネコが欲しくなりました。
「なあ、すまんがわしらに、そのネコを貸してくれ」
そう言って二人は、姉婿と一緒に家までついて来ます。
  姉婿も嫁さんも、仕方なく、
「それなら、ほんの二、三日だけですよ。それから一日に一合のアズキを、食わせるようにして下さい」と、言って、ネコを渡しました。
(しめしめ、このネコさえいれば、大金持ちになれるぞ)
  二人は家に戻ると、さっそくアズキを一合食べさせようとしましたが、
(待てよ、一合で一升の小判を生むなら、五合食わせれば五升の小判を生むわけだ)
  そこで嫌がるネコに無理矢理五合のアズキを食べさせると、ネコはとっても臭いフンを山の様に出して、そのまま死んでしまいました。
「なんだ、なんだ。小判を生むなんて、とんでもない。山の様なフンなんかしやがって!」
  お百姓さんもおかみさんもカンカンに怒って、姉婿の家へ怒鳴り込んで来ました。
「よくも、わしらを騙したな」
「そんな。騙すなんて、とんでもない」
  姉婿は、すぐにお百姓さんの家へ行って、死んだネコをもらい受けて来ました。
「可愛そうに。どうか、かんべんしておくれ」
  姉婿はネコを庭に埋めて、毎日手を合わせました。
  すると二、三日して、ネコを埋めた所から南天(なんてん→メギ科の常緑低木)の木が生えてきて、見る見る大きくなり、たくさんの実をつけました。
  姉婿はそれを見ると、可愛かったネコの目を思い出して、思わず木をゆさぶってみました。
  すると南天がバラバラこぼれて、何と黄金に変わったのです。

  黄金のおかげで姉婿は大金持ちになり、姉娘は三人の姉妹の中で一番幸せ一生を送ったという事です。

おしまい

註 : 乙姫さまは、竜宮城に住むとされているお姫様です。

自分、もしくは仲間が親切にされると、竜宮城に招待したり、お礼に宝物をくれる気前の良い女性です。
浦島太郎で有名ですが、昔話にはちょくちょく出てきます。
竜宮城(りゅうぐうじょう)は、竜王や竜神などがすむという宮殿の事です。
インドには、ナーガ(竜王)の都が地下にあり、宮殿は天上・地上・地下のどんな宮殿よりも豪華だとされています。
日本神話では、海底に海神(わたつみ)の宮があり、娘のトヨタマヒメは竜の姿になって出産します。
浦島太郎と竜宮城の乙姫との話のほか、昔話の「竜宮童子」や「竜宮女房」では、淵の底に屋敷があり、善意の者がむくわれる事になっています。
竜宮城は、あの世(死者の国)にあり、死者の世界だとも言われています。

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