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福娘童話集 > 日本昔話 > その他の日本昔話 >小僧になったキツネのお札
第 93話
小僧になったキツネのお札
むかしむかし、ある寺に男の子が訪ねてきて、
「どうか、おらをこの寺の小僧にして下さい」
と、頼んだのです。
そこで和尚さんは男の子を寺の小僧にしてやったのですが、小僧はとてもよく働く子どもで、掃除でも洗濯でも、何でも自分から上手にやります。
おかげで和尚さんの仕事はだいぶん楽になり、本当にいい小僧が来てくれたものだと、和尚さんは心から喜びました。
ところがこの小僧さんには、たった一つ欠点がありました。
それは子どもなのに、『ガー、ゴー、ガー、ゴー』と、とても大きないびきをかくのです。
ある夜の事、小僧さんのいびきがあまりにもうるさいので、和尚さんは小僧さんの部屋をのぞいてみました。
すると小僧さんのお尻には、何とふさふさと毛の生えた立派な尻尾が生えているではありませんか。
「「・・・・・・!」
和尚さんはびっくりしましたが、それでも小僧さんを起こさないようにと、そっとふすまを閉めて部屋を出ました。
翌朝、和尚さんの部屋に小僧さんがやってきて、きちんと座ってていねいに頭を下げると、こう言いました。
「和尚さん、実はおらは、近くの森に住むキツネでございます」
そして和尚さんが見ている前で、小僧さんはキツネの正体を現しました。
しかし和尚さんは少しも慌てず、落ち着いた口調で言いました。
「それがどうしたのじゃ? わしはお前がキツネでも、いっこうにかまわんが」
「いえ。そう言うわけにはいきやせん。術を見破られたら正体を現すのが、キツネの決まりですから」
どうやらキツネは、和尚さんが夜中に様子を見に来たのに気づいていたようです。
「はばかりながら、おらは化けるのが得意です。おらは色々な物に化けることが出来ますが、空を飛ぶ物にはどうやっても化けられませんでした。そこでこのお寺の天井裏にある、不思議なお札を手に入れようと思いました。そのお札があれば、トンビの様に空が飛ぶ事が出来るそうです」
「はて、そんなお札があったかのう?」
「はい。先々代の住職さまが、天狗と問答勝負をして手に入れたものだと聞いています。おらはそのお札を頂きたくて、今まで和尚さんのお世話をさせていただいたのです」
「ふむ、そう言う事なら、その札をくれてやってもよいぞ。だが、一つ頼みある。わしに何か、芸を見せてくれんか。お前ほどのキツネなら、さぞかし立派に化けるじゃろう」
「はい。お安いご用です。それでは、お釈迦さまの行列をお目にかけます。ただし、『もったいない』とか、『ありがたい』とか言わないで見ていてくださいよ。でないと、術が終わってしまいますから」
そう言ってキツネは、くるりととんぼ返りをしました。
するとあたりの景色が急に変わって、咲きみだれる桜の木の下をたくさんのお坊さんをしたがえたお釈迦さまが、ゆっくりと歩いて行くのが見えたのです。
そのあまりの美しい光景に、和尚さんは思わず手を合わせて、
「ああ、もったいない事じゃ。ありがたい事じゃ」
と、拝んでしまったのです。
そのとたん、桜の花もお釈迦さまの行列も消えてしまいました。
そしてハッと顔をあげると、青い空にお札を持った一匹のキツネが、トンビの様に円を描いて飛んでいるのが見えたそうです。
おしまい
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