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第 95話
座頭(ざとう)の木
日本昔話
むかしむかし、ある大きな川のほとりに、渡し守(わたしもり)のおじいさんが住んでいました。
渡し守とは、人や荷物を舟に乗せて川を渡る仕事です。
ある年の事、ひどい雨が降り続いて川の水があふれ出し、近くの村は水浸しになってしまいました。
大水がひくと村人たちは壊れた家や荒れた田畑の手入れに忙しくて、悲しむひまもないほどでした。
そんなある日、川上から流されてくる木を拾おうと渡し守が舟を出すと、ちょうど手頃な木が流れてきました。
さっそく引き寄せてみるとそれは木ではなく、なんと座頭の死体だったのです。
座頭は目が不自由な人で、琵琶・三味線(しゃみせん)をひいて語り物を語ったり、あんまやはりの治療をしながら旅をしている人でした。
この村にやって来ると子ども達に好かれて、子ども達にコマや凧(たこ)を作ってやっている姿を渡し守も見たことがあります。
「何と可哀想な事だ。目が見えないので、あやまって川に落ちて死んだんだろう」
気の毒に思った渡し守は、川のそばに座頭を埋めて手を合わせました。
それから数日後、渡し守がお供え物を持って座頭を埋めた場所に行ってみると、座頭を埋めた場所に木が生えていました。
そしてその木は見る見るうちに、見上げる程の大木になったのです。
やがて大木は、赤や黄や白の大きな花を咲かせました。
その花をよく見ると、花の中に小さな座頭が座っていて、笛や太鼓、三味線を鳴らしながら賑やかなお囃子を始めたのです。
それを見つけた子どもたちは、座頭の奏でるお囃子に合わせて歌います。
♪座頭埋めたれば、でかい木になった
♪ねんねんねんねん、ねんねこよ
この座頭の木のうわさはあっという間に広まり、遠くの町からも毎日のように見物客が押し寄せました。
そこで渡し守や見物客相手にまんじゅうやお弁当を売る商売を始めました。
家を流された村人も大勢の見物客のおかげで、暮らしがかなり楽になりました。
何日かすると、花が川に散り始めました。
花の中の座頭坊さまは川に流れながらも賑やかに楽器を打ち鳴らすので、川を流れる花と一緒に座頭のお囃子を楽しみたいと言う見物人が増えたので、渡し守も本職の舟でとてもお金を稼ぐことが出来ました。
そして秋になると座頭の入った花は全て散って見物客もいなくなりましたが、座頭の大木は実の代わりに、コマやマリや凧や人形など、子ども達が欲しがるおもちゃを実らせる様になったのです。
そして子ども達が座頭の大木の下に行って、
「座頭の木、おらコマが欲しい」
と、言うと、その子供の前にコマが落ちてきます。
「あたしは、お人形が欲しい」
すると今度は、女の子の前に人形が落ちてきます。
落ちてくるのはおもちゃだけでなく、子ども達がまんじゅうが欲しいと言えばまんじゅうが、着物が欲しいと言えば着物も落ちてきます。
座頭の木はお正月になるまで、村中の子ども達に欲しい物を贈りました。
これは子供好きだった座頭から子どもたちへのお正月の贈り物でした。
おしまい
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