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第 96話

万三つの源さん

万三つの源さん
日本昔話

 むかしむかし、万三つの源さん(まんみっつのげんさん)というあだ名の男がいました。
 万三つとは、万のうち、たった三つしか本当の事を言わない嘘つきの意味です。
 しかもその嘘は、完全には嘘とは言えない微妙な嘘ばかりです。

 ある日、源さんは青い顔をして村中を走り回りました。
「大変だ、大変だ、大変だー! 親子が川に落ちたぞ!」
「なんだって!」
 村人たちが手に手にさおを持って川へ行ってみると、川にはカルガモの親子が気持ち良さそうに泳いでいるだけです。
「源の野郎、また人をだましやがって!」
 村人たちはカンカンに怒って源さんに文句を言いましたが、源さんは涼しい顔でとぼけています。
「あはははは。おれのあだ名が万三つってのを知っているだろ。しかも鳥とはいえ親子が川に落ちていたんだ。今回は万じゃなくて三つの方だよ」
と、言うしまつです。

 またある時、町で源さんを見かけた知り合いが声をかけました。
「よお源さん、しばらくだな。おっかさんは元気かい?」
 すると源さんは、目に涙を浮かべながら言いました。
「ううっ、おっ、お袋は、今朝死んでしまった。墓に埋めるのももったいねえから、せめてありがたく晩飯に食おうと思っているんだ」
「おっかさんを食う! バカヤロウ! 気が動転しているのは分かるが、すぐに坊さんを呼んでお葬式をしないとダメだろ!」
 知り合いが慌てて坊さんを連れて源さんの家に行ってみると、源さんのお母さんがニワトリの羽根をむしっているところでした。
「これはどう言う事だ? 源さんにお袋が死んだと聞いたんだが・・・」
 知り合いが源さんのお母さんに尋ねると、
「お袋? ああ、家で飼っている雌鳥の1羽が死んだんで、晩飯にしようと思ってね」
と、言うではありませんか。
「ちくしょう、また源さんにだまされた!」

 それからもこんな感じに、隣村が火事だと言うので行ってみたら、たき火をしているだけだったり、庄屋さんが大けがをしたと言うので行ってみたら、おでこをすりむいた程度だったり、馬が卵を生んだと言うので行ってみたら、馬小屋に白く塗ったカボチャが置いてあったりと(→これは、だまされる方が悪いですが)、いつもいつも、源さんは嘘をついて村人たちをからかったのです。

 そんな源さんもやがて年をとって、重い病気になってしまいました。
 命ももう数日だというとき、源さんは家族や親戚たちを枕元に呼んで言いました。
「万三つの源などと調子に乗って、みんなには長いこと迷惑をかけたな。すまんかった。実は、日頃から貯め込んでいた金をつぼに入れて床下に埋めてある。おれが死んだらつぼを掘り出して、みんなで分けてくれ。せめてもの罪ほろぼしだ」
 これを聞いた親戚たちは、大喜びです。
(いくら万三つだって、死ぬときにまで嘘はつくめえ)
 みんなは一生懸命に、源さんの看病をしました。
「ああ、みんなに優しくしてもらいながら死ねるなんて、良い人生だった。じゃあ元気でな」
 数日後、源さんは死んでしまいました。
「さて、葬式も済んだことだし、床下を掘ってみるか」
 葬式を終えた親戚たちが集まって、さっそく源さんが寝ていた床下を掘ってみました。
 すると土の中から、大きなつぼが出てきました。
「これだな。これだけ大きいとは、かなりの大金だろう」
 家族がつぼのふたを取ってみると、大きなつぼの底には数枚の小銭と紙きれが一枚入っているだけでした。
 その紙きれを見てみると、
《わははははっ。大金を期待していたところ悪いが、おれがそんな金を持っているわけがないだろう。残せる金は、せいぜいこれくらいだ。ここの小銭は、ここに来ている子ども達の小遣いに配ってやれ》
と、書いてあったそうです。

おしまい

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