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第 98話
彦一のカッパつり
彦一のとんち話 → 彦一について
・日本語(Japanese) ・英語(English) ・日本語(Japanese)&英語(English)
英訳翻訳者 花田れん
むかしむかし、彦一(ひこいち)と言う、とてもかしこい子どもがいました。
ある日、彦一が川で魚を釣っていると、かごに乗った殿さまが通りかかりました。
釣りが大好きな殿さまは、かごから降りて尋ねました。
「彦一、何を釣っているのだ?」
彦一はニヤリと笑うと、殿さまにまじめな顔で言いました。
「はい、カッパです」
「ほう、カッパとは珍しい。して、一匹ぐらい釣れたのか?」
「それが、どうもエサが悪くて、まだ一匹も釣れないのですよ。カッパはクジラの肉が大好物なのですが、あいにくミミズしかないので」
「クジラの肉なら、城にたくさんあるはずじゃ。どれくらいあればよいのじゃ?」
「そうですね、二貫目(にかんめ→約7.5s)ぐらいですかね。カッパの夕飯に間に合えば、ありがたいのですが」
「よし、わかった」
殿さまは大きくうなずくと、急いで城へ帰って行きました。
(へへへ、うまくいった)
さて、夜になりました。
彦一が川で待っていると、殿さまがクジラの肉を持って来ました。
そして彦一の隣に座ると、小声で聞きました。
「カッパの夕飯には、間にあったか?」
「はい、なんとか。さあ、クジラの肉を切ってください」
殿さまは暗やみの中でクジラの肉を切って、彦一に渡しました。
すると彦一は暗いのをいいことに、その肉を釣り針につけるふりをして持って来た竹の皮に包みました。
そしてエサのない釣り竿を、川に入れました。
「彦一、どうだ? 釣れたか?」
「あっ! いま食いついたところなのに、殿さまの声でカッパが肉を持って逃げてしまいましたよ」
「そうか。それは悪い事をした」
殿さまはまた肉を切ると、彦一に渡しました。
彦一はまた竹の皮に包むと、エサのない竿を川へ入れました。
しばらくすると、殿さまはがまん出来なくなって声をかけました。
「どうじゃ、彦一」
すると彦一は、わざと大げさに言いました。
「ああ、せっかく釣れそうだったのに! 殿さまの声で、また肉を持って行かれましたよ」
「そうか。それはすまん」
殿さまは小さくなって、もう一度肉を切って渡します。
彦一はそれを、こっそり竹の皮に包みます。
これを何度もくり返しているうちに、とうとう肉がなくなってしまいました。
「殿さま。残念ですが、また今度にしましょう」
「うむ、仕方がないな」
殿さまはそう言って、城へ帰って行きました。
「よし、今夜はクジラ鍋だ」
彦一は家に帰ってたくさんのクジラ鍋を作ると、村のみんなにも分けてやりました。
おしまい
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