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第 105話
温かい草履
豊臣秀吉の出世物語
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投稿者 「【やさしく朗読】ま る / M A R U」
今川家の松下加兵衛(まつしたかへえ)の家来になった日吉丸は、松下家で三年間仕えました。
頑張って働き、その仕事ぶりを認められたものの、今川家では生まれ持っての地位やコネがないと出世は難しいので、侍大将になると言う日吉丸の夢を叶える事は出来ません。
そこで今度は尾張にもどって、織田一族の分家の大名、織田信長の小者(こもの)になりました。
小物とは、主人の身のまわりの世話をする雑用係です。
ある寒い日、信長は小物の日吉丸に言いました。
「サル! 出かけるぞ」
「はっ、かしこまりました。どうぞ、おはきものをおめしください」
「うむ」
信長は、日吉丸がきれいに並べたぞうりに足を入れて、怪訝な顔をしました。
「むっ。この寒空に、なぜ草履が温かい。さてはサル、わしの草履を尻にしいていたな。この無礼者!」
「いいえ。そんな、めっそうもない」
「では、なぜ草履が温かいのだ?」
信長にたずねられて、日吉丸は待ってましたとばかりに言いました。
「はい! 殿のおみあしが冷えてはならぬと、このふところで温めておきました」
日吉丸が自分の胸元を開くと、そこには草履の跡がくっきりと残っています。
この草履の跡は、日吉丸がわざとつけた物でした。
それを一目で見破った信長は、思わずニヤリと笑いました。
「ふっ。あざといが、顔にあわず頭の良いサルよ」
生まれ持っての地位やコネがない日吉丸は、この様に細かい事にも知恵を働かせながら信長に仕え、信長の信頼を少しずつ得るようになりました。
おしまい
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