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第1話
尊仏の雷様
神奈川県の民話 → 神奈川県の情報
昔々、相模の国(現在の神奈川県の一部)の丹沢の山の中におじいさんと二人の孫
が住んでいました。
その二人の孫のうち、上の子が女の子で下の子が男の子でした。
三人は、家の前の畑に季節の野菜や作物を植え、これを収穫して暮らしていました。
ある秋の日の事です。
三人は冬に収穫する大根の種を畑にまきました。
すると種からは芽が出て、やがて大きな大根の葉を茂らせるようになりました。
三人は「早く大根が大きく育ちますように。」
と願いを込めて、せっせと川から水を汲んでは、畑に撒いたりしました。
ところがどうしたことでしょうか、それから何日も雨が降らない日が続き、とうとう川の水も干上がってしまいました。
おじいさんは
「このままじゃ、せっかく育った大根が枯れてしまう…。そうだ!塔ヶ岳の尊仏様の所へ行って、雨を降らせてもらお
う!!」
と、尊仏様への雨乞いに行くことを思いつきました。
尊仏様とは、塔ヶ岳の上にあるてっぺんに穴の開いた大岩のことで、雨を降らせる神様として土地の者から祭られていました。
おじいさんと孫姉弟は、早速塔ヶ岳に登り尊仏様の前で手を合わせ、
「どうか雨が降りますように。」
と願いを込めて、一生懸命お祈りをしました。
こうして三人は、それから毎日塔ヶ岳に登り、尊仏様に手を合わせるようになりました。
ところが、三人のお参りが八日目になっても、一向に雨の降る気配がありません。
そればかりか、おじいさんはお参りをする無理がたたって具合が悪くなってしまいました。
「このままじゃ、おじいちゃんが病気になってしまう…。」
上の女の孫は心配になりました。
この祖父と姉の様子を見た下の男の孫は
「何で俺とじっちゃんと姉ちゃんの願いを聞いてくれないだ!!」
と尊仏様に腹を立てました。
そして
「石ころくらえ!!!このやろ〜!!!!」
と、尊仏様に向かって小石をたくさん投げつけました。
それを見ていた姉は
「そんなことをしたら罰が当たってしまうわ!」
と言って弟を止めようとしましたが後の祭りでした。
弟が尊仏様に向かって小石を投げ続けてしばらくすると、そのうちの一つが岩のてっぺんにある穴の中に入りました。
すると、大きな地鳴りが起き、大岩から
「誰じゃあ〜!!!尊仏様の穴に石を投げ込む奴は〜!!!!」
と大きな声がしました。
弟はすっかり怖くなり
「これじゃあお姉ちゃんの言う通り、俺に罰が当たってしまいそうだ〜!」
と言って、おじいさんの背中に隠れました。
そしてガタガタと震えながら今までのいきさつを話しました。
すると尊仏様は笑いながら答えました。
「ワシは今まで昼間はずっと昼寝をしていたので、それで願いを聞けなかったのじゃ。坊や、お前が起こしてくれたお礼に、お前たち三人の願いをかなえてやろう。」
と言うや否や、岩の穴から沢山の雷様と黒雲が出てきて、里に雨が降り、川の水が再び流れるようになり、三人の畑の大根もすっかり元気を取り戻しました。
やがて冬の大根の収穫を無事にすることができたおじいさんと孫姉弟は
「尊仏様、ありがとうございました!」
と尊仏様にお礼を言いました。
それからと言うもの、この辺りでは雨が降らないと、尊仏様の目を覚ますために、岩の穴に石を投げ込むようになりました。
そして目を覚ました尊仏様は、必ず気前よく雨を降らせたそうですが、1923年(大正12年)9月1日に関東大震災が起こり、その翌年の1924年(大正13年)1月15日のの余震(余震ではなく別の地震ともいう)で、尊仏様の岩は粉々になって、北西側直下の大金沢に崩れ落ち、尊仏様はいなくなってしまったそうです。
おしまい
この物語は、福娘童話集の読者 山本様からの投稿作品です。
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