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第 2話
火焚き長者
岩手県の民話 → 岩手県の情報
※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先
制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
昔々、ある所にとても貧乏な夫婦がいました。
ある大晦日の事、女房が
「明日はお正月です。ここに私が作った笠がありますから、それを町で売って白いお米を買ってきてちょうだいね。」
と旦那さんに言いました。
そこで旦那さんは、女房が作った笠を担いで町にやってくると
「笠はいらんかねー。うちの嫁が作った、丈夫な笠はいらんかねー。」
と、売り歩いたのですが、どこの家でも年越しの準備で忙しかったので、誰も笠を買ってくれる人はいません。
「仕方がねぇ、帰るとするか。」
旦那さんが家へ帰ろうとすると、道の反対側から炭俵を背負ったおじいさんが
「炭はいらんかねー。炭はいらんかねー。」
と、言いながらやってきました。
そのおじいさんと目が合った旦那さんはおじいさんに尋ねました。
「なあ、じい様。炭は売れたか?」
するとおじいさんは、首を横に振って、
「駄目だ。さっぱり売れねえ。」
と言いました。
そこで、旦那さんが
「もしよろしければ、オラの笠と、じい様の炭を取り替えねえか? このまま笠を持って帰っても、仕方がねえし。」
と、おじいさんに言いました。
「いいよ。オラもこの重たい炭俵を持って帰るのは、大変だからなあ。」
こうして二人は笠と炭を交換すると、それぞれの家へと帰って行ったのです。
でも、お米ではなく炭を持って帰った旦那さんを見て、女房はがっかりです。
女房は
「お正月なのに、米ではなく炭を持って帰るなんて、残念だわ。」
と言って、寝込んでしまいました。
旦那さんは
「そうは言うが、オラは一生懸命売り歩いたんだ。大体、そのまま笠を持って帰るよりもましだろう!オラのせいにするな!!」
と怒って、持ち帰った炭をいっぱい、炉(ろ)にくべました。
火はかっか、かっかとおこって、炉の縁が焦げるくらいによく燃えました。
家の中がたちまち暖かくなりました。
すると、家の隅(すみ)の方から小さな話し声が聞こえてきました。
「熱いなあ、熱いなあ。オラはこんなに汗をかいてしまったぞ。」
「そうだなあ。こんなに熱くては、ここの家にいる事は出来んぞ。」
「それなら、みんなでこの家から出て行こう。」
「そうしよう。しかし、長い間厄介になったんだから、何か土産を置いていこう。」
「それなら、白い米と魚を置いていこう。」
小さな声はそう言うと、土間に何かをどさっと置きました。
その声と音に気づいた旦那さんが、戸の隙間から、そーっと、様子をうかがうと、数人の小人が汗を拭きながら家から出て行くところでした。
小人達は
「汗かいて仕方がねえ。」
「忘れ物、無いかな?」
「ささぁ、行くべえ。」
と言っていました。
ちょうどその時、戸口へ白いヒゲを生やした爺様が現れて、
「こら貧乏神ども。お前達、まだいたのか?」
と叱ったのです。
「へい、これはこれは福の神様。今すぐ出て行きますので。」
「早く急げ、急げ。」
貧乏神と呼ばれた小人達は、すぐに戸口から出て、その爺様の股の下をくぐりました。
そのとたん、小人達はスーッと消えてしまいました。
一方、福の神と呼ばれた白いヒゲの爺様は、
「これが、これから厄介になる家かぁ。貧乏神どもが住み着いていただけあって、小さくてみすぼらしい家だ。しかし、このワシが来たからには、もう少し立派な家にしてやらんとな。」
と、言いながら戸口から入ってきて、そのままスーッと消えてしまったのです。
それらを見ていた旦那さんは急いで寝込んでいる女房を起こしました。
「お前、早く起きろ!今、この家から貧乏神が出て行って、福の神がやって来たんだぞ!!」
女房は
「あれ?何を馬鹿な事を。きっと夢でも見てたんじゃないかなぁ?」
と言いましたが、旦那さんに土間へ連れて行かれてびっくり。
「あら、米俵がこんなに。それに魚も。」
女房は早速、お米と魚でお正月の用意を始めました。
そしてこの家ではよい事が続いて、福の神が言っていたように立派な家を建てることが出来ました。
そこで人々はこの家を『火焚き長者』と呼ぶ様になり、自分達も貧乏神を追い出して福の神が来るようにと、大晦日には大火(おおび)を焚く家が多くなったそうです。
おしまい
この物語は、福娘童話集の読者 山本様からの投稿作品です。
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