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第 9話
キノコの化け物
秋田県の民話 → 秋田県情報
昔々ある山奥に、一人暮らしのおばあさんがいました。
おばあさんは昼間他の人の手を借りながら畑仕事をしたり、山の近くの村の人たちとお付き合いをしていましたが、夜はいつも一人で食事をしたり、夜なべ仕事をしていました。
寝るときも一人でした。
ある真夜中の事、おばあさんがいつものように一人で布団をかけて寝ていると、どこからとも無く歌声が聞こえてきました。
「何かしら?」
と、おばあさんが目を覚まして見てみると、いつの間に入ってきたのか、17、8の娘が大勢立っていました。
娘達は
「おばあさん、一人じゃさびしかろう。オラ達の歌と踊りを楽しんでくれろ。」
と言うと、
「森の奥は真っ暗け〜、オラ達ゃばーばの家がええ〜♪」
と歌いながら踊るのでした。
その歌声はとても愉快だけどうるさいこと。
おばあさんは
「うわぁ〜!何てうるさいんだろう!!」
と言って、一晩中眠れずに朝を迎えてしまい、気がつくと娘達はおばあさんの目の前からいなくなっていました。
次の真夜中もあの娘達がやって来て、又
「森の奥は真っ暗け〜、オラ達ゃばーばの家がええ〜、だけど“うすい峠の法覚坊”に知らせたら、おいらの命はたんまらねぇ〜♪」
とうるさく歌い踊るのでした。
おばあさんは
「ぎょえ〜!うるさ過ぎるぅ〜!!これじゃあ、眠れやしない!!!」
と言って、又も眠れなくなってしまいました。
この娘達は次の真夜中も、又次の真夜中も現れては歌い踊って騒ぎ、そして朝になるといつの間にか消えているのでした。
こんな事が何日も続き、おばあさんはとうとう寝不足になってしまい
「ああ…、どうしよう…。このままじゃ、完全にノイローゼになってしまう…。」
と、すっかり困り果ててしまいました。
その時、おばあさんは
『“うすい峠の法覚坊”に知らせたら』
と言うのを思い出し、
「法覚坊に会えば何とかなるかも知れない。」
と思い、訪ねる事にしました。
おばあさんは法覚坊にこの事を話すと、法覚坊は
「お前を寝不足にしているのは、山の化け物の仕業じゃ。
お前が夜、山の中で一人でいるのをいい事に大騒ぎをしに来ているのじゃ。
じゃがこのまま寝不足にされては、挙句の果て、お前は病気になってしまうぞ。」
と教えました。
それを聞いたおばあさんは
「それじゃあ、どうすればいいのか?」
と、法覚坊に聞きました。
すると法覚坊は
「ナス汁を沢山作ってご馳走してやれ。そうすれば大丈夫だ。」
と教えてくれました。
おばあさんは家に帰ると、早速ナスを沢山刻んで大鍋でグツグツと煮込んでナス汁を作りました。
そしてその真夜中、又あの娘達がやって来て歌い踊り騒ぎ始めました。
おばあさんは今夜こそ眠くならないようにしっかりと目を見開いて娘達を見ていました。
娘達が歌い踊って一休みした時、おばあさんは
「お前達も、お腹が空いたじゃろう。今夜は美味しいお汁が沢山あるから食べてくれろ。」
と言って、むしろを敷きその真ん中に大鍋をでんと置いてお椀によそい、娘達に振舞いました。
娘達はお椀を手に取ると、ゆっくりとすすり始めました。
そしてナスを一口食べた時、娘達はぎょっとして
「きゃ〜っ!」
と悲鳴を上げ、その悲鳴に驚いたおばあさんは、そのまま気を失って倒れてしまいました。
どのくらい経ったのでしょうか、おばあさんが気がつくともう朝になっていて、娘達の姿は無く家の中は静まり返っていました。
そして、娘達が座っていたむしろにはお椀が伏せてありました。
おばあさんがお椀をそっと持ち上げて見ると、お椀の下にはキノコが一つずつ入っていました。
娘の姿をした化け物の正体は、山のキノコでした。山のキノコが娘達に化け、山で一人で暮らすおばあさんを寝不足にした上で、病気で寝込ませようとしていたのでした。
それ以来、キノコはナスに弱いので、キノコを食べる時はなるべくナスも一緒に食べるようになったと言う事です。
おしまい
この物語は、福娘童話集の読者 山本様からの投稿作品です。
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