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第 10話

瓜生権左衛門(うりゅうごんざえもん)

竜宮の黒猫
長崎県島原半島の民話の民話長崎県の情報

 昔々、あるところに裕福な長者の家がありました。
 その家には夫婦と二人の娘がいて、姉は欲が深くて意地悪、妹は母に似て心の優しい性格をしていました。
 ところが、ある日父親が亡くなり、姉娘が婿をもらうと、母と妹に向かって乱暴にも「お前たちなんか出て行ってしまえ!」と怒鳴ると、その二人を家から追い出してしまいました。

 家を追い出された母親と妹娘はしょんぼりしながら歩いていましたが、途中、一人の山番の男が二つの墓の前で泣いているのに出くわしました。
 二人は「どうして泣いているのですか?」と優しくたずねると、山番の男は「妻と娘が病気で死んでしまったんだ。今は一人ぼっちだ…。」と悲しそうに答えました。
 そして母親と妹娘を見ると「おお、ワシの死んだ女房と娘にそっくりだ。」と言って、自分の家族になってほしいとお願いをしました。
 母親と妹娘は「私達はちょうど家を追い出されたばかりなのです。」と言って喜んで山番の家族になることを受け入れました。

 こうして山番の男の女房と娘になった母親と妹娘は、毎日一家三人で山から薪を取ってきては町へ売る生活をするようになりました。
 けれども三人の生活は決して楽ではなく、薪がまるで売れない日があると女房と娘が前に住んでいた長者の家にやるのも嫌だと思って、その薪を海に投げ込んで帰るのを常としていました。

 そうしたことが何度か続いたある日、山番一家三人がいつものように売れ残った薪を海に投げ捨てた後、家に帰ろうとすると、海の中から一匹の大きな亀が現れて「いつも薪をくださってありがとうございます。何かお礼をしたいので竜宮へ来てください。」と言って、三人を背中に乗せて海の中へと潜っていきました。
 途中、亀が三人に「一つだけお話したいことがあります。龍王様があなたたちに何かお土産を渡すと言ったら、『黒猫をください。』と言いなさい。決して『はなたれ小僧をください。』と言ってはいけません。以前、はなたれ小僧をもらってひどい目にあった人がいるので気を付けてください。」とアドバイスをしてくれました。

 やがて山番一家三人が竜宮へ着くと、竜王たちが歓迎のうたげを開いてくれました。
 三人は竜宮で楽しい時間を過ごした後、そろそろ帰ろうとすると竜王が「何かお土産を差し上げましょう。」と言ってきたので、三人は亀に教えられたとおりに「黒猫をください。」と言うと、「この黒猫には、毎日小豆を五合食べさせなさい。」と、竜王はそう言って黒猫を渡してくれました。

 こうして竜宮を後にした三人が黒猫を家に連れ帰ると、早速小豆五合を黒猫に食べさせました。
 すると黒猫は黄金を生んだのではありませんか。大喜びした三人は毎日黒猫に小豆を五合与え続け、そのたびに黒猫は黄金を生み続けるので、山番一家三人は裕福になり、生活も楽になりました。

 ところが、山番の女房と娘が前に住んでいた長者の家にいる長女夫婦が、自分が追い出した母親と妹が山番の女房と娘になった上に竜宮の黒猫のおかげで裕福になったと聞いて大変驚きました。
 長女夫婦は早速山番一家の家に行き「その黒猫を貸せ!」と脅しました。
 すると山番一家三人は「わかりましたぁ…。」と答えると、長女夫婦に黒猫を貸してあげました。
 こうして黒猫を連れ帰った長女夫婦は「もっとたくさん食べさせたら、黄金が増えるかもしれない。」と思い、黒猫に小豆を一升与えました。
 すると、黒猫は小豆を一升食べたとたんに苦しみだし、黄金を生むことなく死んでしまいました。
 それを見た長女夫婦は「この役立たずの黒猫め!」と腹を立て、黒猫の死体を道に捨ててしまいました。

 ちょうどその時、黒猫を返してもらいに長女夫婦の家を訪れた山番一家三人は、道端に黒猫の死体が捨てられているのを見て「かわいそうに…。」と言って悲しみ、その黒猫の死体を拾って自分たちの家の庭に丁寧に葬ってあげました。
 すると、そこから木が生え、やがて黄色い実をたくさんつけました。
 三人はその実を一つづつもいで食べると、何ともおいしいではありませんか。その夜、三人の夢の中に黒猫が現れて「その黄色いおいしい実は蜜柑の実です。蜜柑の育て方を人々に広めなさい。」と告げました。
 こうして山番一家三人は人々に蜜柑の育て方を広めました。
 やがて蜜柑の育て方を山番一家三人が広めたという話は殿様の耳にも届き、三人を城へ呼び出してほめたたえ、山番の娘は殿様の息子と結婚して両親を城へ招き、いつまでも幸せに暮らしたということです。

おしまい

この物語は、福娘童話集の読者 山本様からの投稿作品です。

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