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第 307話
犬が寒がらない理由
岡山県の民話→ 岡山県情報
むかしむかしの大むかし、火なし村という、火のない村がありました。
この火なし村の南には火を使っている村があって、そこでは火が消えないように一日中たき火をしていました。
そのたき火のまわりには見張りの男が何人もいて、もしよその村人が火を取りにきたら捕まえて殺してしまうのです。
さて、火なし村には、とても親思いの娘がいました。
年を取った両親にあたたかい物を食べさせてやりたいと思い、娘は村人が止めるのも聞かずに犬を連れて南の村に向かいました。
南の村では山の空き地でたき火をしていて、そのまわりには何人もの見張りの男が立っています。
娘は岩の後ろに隠れて、しばらく様子を見ていました。
するとそのうちに、
「ああ、腹が減ったな。そろそろ飯にしよう」
と、見張りの男たちが近くの小屋に入っていきました。
(今だわ!)
娘は火のついた木の枝を数本つかんで、かけ出しました。
そしてようやく山の途中まできた時、後ろから男たちの声が聞こえてきました。
「誰かが火を盗んだぞ! 捕まえて殺してしまえ!」
娘は急ぎましたが、追っ手の声はどんどん近づいてきます。
(もうだめわ。このままでは捕まってしまう)
その時、一緒に走っていた犬が娘の顔を見て、火のついた枝をくわえさせろと口を開けました。
娘は火のついた枝を一本、犬の口にくわえさせました。
「お願い、これを父母のところへ届けてね」
でも犬は娘に早く逃げろと首をふり、そのまま追っ手の方へ走っていきました。
犬は娘を助けるために、自分がぎせいとなったのです。
「ありがとう」
娘はお礼を言うと、のこりの火のついた枝を持ったまま山道をかけおりていきました。
やがて見張りの男たちは、火のついた枝をくわえている犬を見つけました。
「何だ、火を盗んだのは犬か。しかし犬とはいえ、火を盗むものは殺す!」
男たちは、犬をなぐり殺してしまいました。
娘は走りに走って、やっと自分の村へたどり着きました。
「これが、火というものか」
「ありがたい、ありがたい。これからはわしらの村でも、火を使えるぞ」
この時から火なし村でも、火を使った生活が始まったのです。
さて次の日、娘が山道へもどってみると、そこには殺されて冷たくなっている犬が転がっていました。
「ごめんね、ごめんね」
娘はその犬を抱きかかえて村へ戻ると、犬のお墓を作りました。
そして手を合わせながら、神さまにお祈りしました。
「この犬のおかげで、わたしたちの村でも火のある生活が始まりました。どうか神さま、犬の冷たくなったからだを温めてください。そして天国へお送りください」
するとその願いが神さまに通じたのか、その犬は無事に天国へむかえられた上に、地上にいる全ての犬のからだがポカポカと温かくなり、どんなに寒い日でも平気になったという事です。
おしまい
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