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第 330話
シラサギになった藤の花
京都府の民話→ 京都府情報
むかしむかし、志賀郷(しがさと→京都府綾部市)に、藤の宮というお宮がありました。
そのお宮に咲く藤の花は正月に白い花を咲かせる珍しい花で、その珍しい藤の花を一目見ようと全国から大勢の人々が集まりました。
そこで藤の宮の神主は、こんな事を考えました。
「あまり気にしていなかったが、正月に咲く藤の花とはそれほどまでに珍しいのか。・・・よし、ひとつ帝(みかど)にもお見せして喜んでいただきたいものじゃ」
そこで神主は藤の花を正月に切り取って、京の帝に献上したのです。
すると、これを見た帝はとても喜びました。
「見事な藤の花じゃ。しかも正月に白い花を咲かせるとは、まことに素晴らしい」
それから正月になると、この藤の花を宮中に献上する事が習慣となりました。
ある年の事、藤の花を帝に届けていた男が病気になり、代わりの若者が藤の花を届けることになったのです。
神主は、その若者に言いました。
「この箱の中には、帝にお渡しする大切な物が入っておる。だから決して中身を見たりせずに、間違いなくお届けするんじゃぞ」
「はい、決して中身を見ず、必ず無事にお届けしましょう」
ところが若者は、箱の中身が見たくてたまりません。
「一体、何が入っているのだろう? まあ、ちょっとのぞくだけならわかるまい」
もうすぐ京の町に着くというところで、若者は箱のふたを少し開けて中を見ようとしたのです。
すると突然、箱の中から一羽のシラサギが飛び出したではありませんか。
そのシラサギは、あっという間に大空へと舞い上がっていきました。
「しまった!」
若者は後悔しましたが、
「まあ、シラサギならきっと、自分で宮中まで飛んで行ってくれるだろう」
と、そのまま志賀郷(しがさと)に帰っていったのです。
そして神主には、
「箱を無事に届けて帰りました」
と、言ったのです。
その翌年から不思議な事に藤の宮の藤は、正月になっても一つも花を咲かせなくなりました。
おしまい
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