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第 363話

便所の産女

便所の産女
山形県の民話山形県情報

 むかしむかし、山形のある村に、金蔵という貧乏な男がいました。

 ある年の一月十五日の晩の事、金蔵はふと目を覚まして便所へ行きました。
「うぅー。寒い寒い。こんな寒い夜は、便所に行きたくないのう。だが、もらすわけにもいかんし」
 金蔵がぶつぶつ言いながら便所の戸を開けると、何と便所の中から赤ん坊を抱いた女の人が出てきたのです。
「なっ、何だこれは!」
 金蔵がびっくりしていると、女の人は抱いていた赤ん坊を金蔵に差し出しながら言いました。
「すみません。ちょっとの間、この子を抱いていてくださいな」
 それを聞いて、金蔵はふと思いました。
(これが噂に聞く、産女(うぶめ)という幽霊か)
 産女というのは、お産の時に亡くなった女の人の幽霊です。
 山形では一月十五日の夜に、産女が便所の中から出てくると言い伝えられています。
 幽霊と言っても決して悪い幽霊ではないので、金蔵は少し震えながらも差し出された赤ん坊を受け取りました。
 見ればとても可愛らしい赤ん坊で、子供好きの金蔵の顔に笑みが現れました。
「おー、よしよし。いい子だ、いい子だ」
 金蔵は赤ん坊もをあやしながら、ふと気が付きました。
(この赤ん坊、さっきよりも重くなっているぞ)
 赤ん坊の大きさは変わらないのに、赤ん坊がどんどん重たくなっていくのです。
(おっ、重い。これではまるで、石のお地蔵さんを抱いている様だ)
 金蔵は歯を食いしばって、子どもを抱き続けました。
(こらえろ、こらえろ)
 赤ん坊の重さに手がしびれてきましたが、もし落として怪我でもさせては大変です。
(こらえろ・・・。も、もう駄目だ!)
 金蔵が思わず手を放しそうになったその時、赤ん坊が急に軽くなりました。
 産女が、赤ん坊を受け取ったのです。
 産女は金蔵に、にっこり微笑むと言いました。
「お前さまは、わたしやこの子を怖がらず、重いこの子を抱き続けてくれました。お前さまは、勇気ある人です。褒美に、お金か、力か、どちらか望みの物を授けましょう」
 金蔵は少し考えると、産女に言いました。
「くれると言うなら、わしは金よりも仕事をする力が欲しい」
 産女はコクリと頷いて、そのまま煙のように消えてしまいました。

 次の朝、目を覚ました金蔵は顔を洗うと、顔をふいた手ぬぐいを見て思いました。
(産女は力をくれると言ったが、本当だろうか)
 そこで金蔵は、顔をふいた手ぬぐいをぐいとしぼりました。
 すると手ぬぐいは、ぬれた紙の様に簡単に引きちぎれます。
「なるほど。次はあれだ」
 庭へ出た金蔵が大きな庭石に手を掛けると、庭石はふとんの様な軽さで楽々と持ち上がります。
「これはすごい! 産女は本当に力を授けてくれた」
 それから金蔵は産女から授かった力で一生懸命仕事をして、やがて大金持ちになったそうです。

おしまい

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