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第1話
カンチール 森のかしら
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投稿者 「Dr シロネコ」
むかしむかし、ゾウとトラがジャングルを歩いていると、メガネザルが上の方で、
「キーッ、キキーッ!」
と、さわいでいました。
「うるさいな、あのメガネザル」
ゾウは大きな耳をパタパタさせると、トラに言いました。
「あいつをどなりつけて、木から落としてやろう?」
「きみに、そんな事が出来るの?」
「出来るとも! よし、じゃあ、もしぼくの声であいつが木から落ちたら、きみはぼくの家来になるんだ。そしてきみの声であいつが落ちたら、ぼくはきみの家来になってやる」
「それはおもしろい。じゃあ、ゾウくんから先にどなってみたまえ」
「よし、見ていろよ」
ゾウは大きく息を吸い込むと、木の方へむかって、
「パォーン! パォーン!」
と、さけびました。
「ウキィー!」
メガネザルはビックリしましたが、木をピョンピョンと飛びまわるだけで落ちはきませんでした。
「おかしいな? じゃあ、今度はトラくんがやってみたまえ。もしあいつが落ちたら、約束通りぼくはきみの家来になるよ。でも、ちゃんと地面に落ちないとだめだよ」
「ああ、まかせておけ」
トラはメガネザルをにらみつけると、今にも飛びつくようなかっこうをしながら、
「ガオーッ! ガオーッ!」
と、どなりつけました。
するとこわくなったメガネザルはブルブルとふるえて、そのふるえで手がすべってつかまっていた枝からストーンとトラの前へ落ちてきました。
トラはゾウの方を向いて、うれしそうに言いました。
「さあこれで、きみがぼくの家来になる事に決まったね」
「・・・ああっ、そうだね」
ゾウはがっかりしながら家に帰ると、その事をお父さんに話しました。
「そうか、それはこまった事になったなあ」
ゾウのお父さんは、フーーッと鼻で大きなためいきをついて言いました。
「ゾウがトラの家来になったら、トラはいばってこの森の親分になるだろう。トラはらんぼう者だから、きっと弱い者をいじめてみんなをこまらせるだろう」
次の日、ゾウがトラの家来になったとのうわさを聞いて、カンチールという小さなシカがゾウのところへやってきました。
「ゾウさん、きみがトラの家来になったって、本当かい? こまるな、そんな事になったら、トラがいばって森の親分になってしまうよ」
「そうなんだ、カンチールさん。きみは頭が良いから、なにか知恵を出しておくれよ」
「うーん・・・」
しばらく考えたカンチールは、名案を思いついてゾウに言いました。
「よし、それじゃあ、すぐにシュロ(→ヤシ科シュロ属の常緑高木の総称)の木のミツを持ってきてよ」
「わかった」
ゾウは家を飛び出すと、シュロのミツが入ったツボを持ってきました。
「ではゾウさん、それをきみの背中にぬるんだ。よこっぱらや足からポタポタとたれるくらいにね」
ゾウが言われた通りにすると、カンチールはゾウの背中に飛び乗りました。
「ではゾウさん、ぼくを乗せたまま森中を歩くんだ。そしてぼくが背中のミツをなめたら、きみはわざと痛くてたまらないと言うように、大きな声で泣いたり、バタバタと苦しそうな動きをするんだよ」
ゾウとカンチールが森を歩いていると、むこうからトラがやってきました。
「やあ、ぼくの家来よ・・・?」
トラはゾウに声をかけようとして、ゾウのようすがおかしいのに気づきました。
「ゾウのやつ、どうしたんだ? 背中に何かがいるようだが」
トラがようすを見ていると、カンチールがゾウの背中をペロリとなめました。
するとゾウは大きな声で泣いたり、苦しそうに足をバタバタさせています。
ゾウの背中にいるカンチールが、大きな声で言いました。
「こんなゾウくらいじゃあ、物足りないな。トラでも食べれば、腹もふくれるだろうが」
それを聞いて、トラはビックリです。
(なんてやつだ! あんなやつにつかまったら、大変だ!)
トラはカンチールに見つからないように回れ右をすると、急いで逃げ出しました。
トラはとちゅうで、クロザルに出会いました。
「やあ、トラさん。そんなにあわてて、どこへ行くのですか?」
「うん、それがいま、こわいやつに出会ったんだ。そいつは大きなゾウをつかまえて、食べようとしていたんだ。そればかりか、そいつはぼくも食べたがっていたんだ」
トラが言うと、クロザルは笑いながら言いました。
「なんだ。それはきっと、シカのカンチールですよ」
「いや、シカだったら、ぼくを食べるなんて言うわけないだろう」
「じゃあ、いっしょに行きましょうか?」
「ああ、たのむよ」
そこで二匹は、ゾウを探しに行きました。
すると二匹の姿を見つけたカンチールが、ゾウの背中から言いました。
「やあ、クロザルくん。約束通り、ぼくの食べ物を連れて来てくれたんだね。よく太ったトラで、おいしそうだ」
それを聞いたトラはびっくりして、そのまま森から逃げていきました。
こうして森にはトラがいなくなり、みんなは安心して暮らす事が出来たのです。
おしまい
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