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第3話

わらった王女

わらった王女
ロシアの昔話 → ロシアの国情報

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

投稿者 ナレーター熊崎友香のぐっすりおやすみ朗読

【大人も子供も眠れる睡眠用朗読】優しい昔話特集

 むかしむかし、ある国の宮殿(きゅうでん)に、美しい王女が住んでいました。
 けれどこの王女は、生まれてから一度もわらった事がありません。
「王女は、いつもつまらなそうな顔をしている。かわいそうに。何とかして、わらわせてやりたいものじゃ」
 そこで王さまは、こんなおふれを出しました。
《王女をわらわせた者を、王女の婿(むこ)にする》
 おふれを知って、大勢の人が宮殿に集まりました。
 みんなは王女をわらわせようと、おもしろい歌をうたったり、おかしなおどりをおどったりしました。
 けれど王女は、少しもわらいませんでした。

 さて、ある屋敷に、とても正直で働き者の男がいました。
 男が屋敷で働き始めてから一年がたった時、屋敷の主人が金貨のいっぱい入った袋を机の上に置いて言いました。
「一年もの間、ほんとうによく働いてくれた。お礼に、お前が欲しいだけの金貨をおとり」
 すると正直な男は、金貨をたった一枚だけとりました。
 そして井戸へ水を飲みに行ったとき、男はその金貨を井戸の中に落としてしまったのです。
「ああ、これはぼくの働きが悪いので、神さまのバチがあたったのかもしれない」
 男はそう考えて、前よりもいっそう仕事をがんばりました。

 やがてまた、一年がすぎました。
 すると主人が前と同じように、
「お前が欲しいだけの金貨をおとり」
と、言ったので、男はまた金貨を一枚だけとりました。
 ところが井戸へ水を飲みに行ったとき、男はまた金貨を井戸の中に落としてしまったのです。
「ぼくの働きがまだ悪いので、神さまが金貨をお取り上げになったのだろう」
 男はそう考えて、またせっせと働きました。

 また、一年がすぎました。
 主人は机の上に金貨を山のようにつみ上げると、男に言いました。
「今度も、本当に良く働いてくれた。ありがとう。さあ、お前の欲しいだけ金貨をおとり。一枚ではなく、何枚でもいいんだよ」
 しかし男は、一枚しか金貨をとりませんでした。
 そして井戸へ水を飲みに行くと、不思議な事に二枚の金貨が水に浮いているのです。
「これはきっと、神さまがぼくの仕事を認めてくれて、前の金貨を返してくれたにちがいない」
 男は喜んで、浮いていた二枚の金貨をひろいました。

 三枚の金貨を手に入れた男は、一度世界を旅したいと思いました。
 そこで主人に休みをもらうと、元気よく出発しました。

 男が野原を歩いていると、一匹のネズミが現れて言いました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっと恩返しをしますから」
「ああ、いいよ」
 男は気前良く、一枚の金貨をネズミにやりました。
 次に森を歩いていると、今度はカブトムシが現れて言いました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっと恩返しをしますから」
「ああ、いいよ」
 男は気前良く、一枚の金貨をカブトムシにやりました。
 次に川をわたっていくと、ナマズが現れて言いました。
「だんなさま、金貨を一枚くださいな。きっと恩返しをしますから」
「ああ、いいよ」
 男は最後の一枚を、ナマズにやりました。
 これで男は、一文なしです。
 けれど男はそんな事にはおかまいなしに、また旅を続けました。

 やがて男は、町につきました。
 始めて町へやって来た男は、大勢の人や多くの建物がめずらしくてたまりません。
 あたりをキョロキョロ見回していると、男の前にキラキラとかがやく宮殿が現れました。
 上を見上げると、あの一度もわらった事のない王女が、まどから男を見ているではありませんか。
「あっ、なんて美しい人なんだ。あんなに美しい人を、今まで見たことがない」
 男は王女のあまりの美しさにびっくりして、思わず気を失ってしまいました。
 するとどこからともなく、男のまわりにナマズとカブトムシとネズミが現れました。
(なにかしら?)
 王女はまどから身をのり出すようにして、倒れた男をじっと見つめました。
 するとまず、ネズミが男の服についた泥をはたき落としました。
 四本の足だけではたりなくて、尻尾も使って泥をはたき落とします。
 次にカブトムシが、じまんのツノで男のよごれた長ぐつをきれいにみがきました。
 最後にナマズが、立派なひげで男の鼻の下をくすぐりました。
 すると男はびっくりして、飛び起きました。
 それを見ていた王女は、おかしくてたまりません。
「オホホホホホ、まあ、なんて楽しいのでしょう」
 王女の美しいわらい声が、あたりにひびきました。
 そうです。
 王女がはじめて、わらったのです。
 王女が笑ったと知った王さまは、大喜びで言いました。
「おおっ、王女がわらっておるぞ! 王女が、生まれてはじめてわらったぞ! 王女をわらわせたのは誰じゃ?」
 すると大勢の人たちが、うそを言って名乗りをあげました。
「わたしです」
「いいえ、ぼくです」
「この、わたくしです」
 ところが王女が、男の方を指さして言いました。
「みんな違います。あたしをわらわせたのは、あの人よ。それにネズミと、カブトムシと、ナマズです」
 男は宮殿にまねかれると、王さまにもらった服を着ました。
 すると男は、立派な若者になりました。

 やがて男は王女と結婚して、ネズミとカブトムシとナマズと、みんな仲良く暮らしました。

おしまい

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