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第22話
三人の軍医さん
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むかしむかし、腕のいい、ある外科(げか)の軍医(ぐんい)三人が、宿屋(やどや)にとまったときのことです。
宿屋の亭主(ていしゅ)が、三人にいいました。
「おうわさは、かねがねきいております。どうか、みなさんの腕前(うでまえ)をはいけんさせていただきたいのですが」
すると、三人の軍医はこころよくうなずきました。
「ああ、いいですよ。では、わたしは自分の腕をきって、明日の朝に、つなげてみせましょう」
と、一人目の軍医はいって、自分の両腕を切り落としました。
「では、わたしは自分の心臓(しんぞう)を取り出して、明日の朝に、とりつけてみせましょう」
と、二人目の軍医はいって、自分の心臓を取り出しました。
「では、わたしは自分の目玉を取り出して、明日の朝に、またはめこみましょう」
と、三人目の軍医はいって、自分の目玉を取り出しました。
三人の軍医は、それぞれの物を大きな皿にのせると、ビックリしている宿屋の亭主にさしだしました。
「さあ、これを明日の朝まであずかっていてください。カギのかかる戸棚(とだな)へしっかりとね」
さて、その日のま夜中のことです。
この宿屋ではたらく女の人が、カギのかかった戸棚をあけて、中に入れてあった食べ物を取り出しました。
このあと、すぐにカギをかけておけばよかったのですが、女の人はカギをかけるのを忘れて、どこかへいってしまったのです。
さあ、それをノラネコが見ていたから、たいへんです。
ネコはカギのかかっていない戸棚の中から、三人の軍医の腕や心臓や目玉をくわえると、どこかへ持ち去ってしまったのです。
あとになって、カギをかけ忘れたことに気づいた女の人は、あわてて戸棚のところへ戻ってきましたが、腕も心臓も目玉もどこにもありません。
「こまったことになってしまったわ。なんとかして、腕と心臓と目玉を用意しないと」
女の人は友だちの兵隊にたのんで、死刑になったドロボウの腕を手に入れました。
次にネコをつかまえて、その目玉を取り出しました。
そして心臓は、宿屋でかっているブタから取り出しました。
こうして、なんとか腕と心臓と目玉を用意した女の人は、それを皿にのせると、もとの戸棚にしまってカギをかけたのでした。
朝になり、三人の軍医は宿屋の亭主の所へいくと、約束どおり腕や心臓や目玉を元どおりにとりつけました。
腕のいい軍医だけあって、取りつけたところにはキズひとつありません。
「では、われわれは旅を続けます。昨晩はありがとうございました」
三人の軍医はそういって宿屋を出ましたが、それからおかしな事がおこりました。
ブタの心臓をつけた軍医は、しばらくするとあちこちにおいをかぎまわるようになり、ドロボウの腕をつけた軍医は、人の物をとりたくてとりたくて仕方がありません。
そしてネコの目玉をつけた軍医は、夜になると目が光り、やたらとネズミを見つけるようになりました。
「これはおかしい、宿屋にもどってみよう」
三人の軍医はあの宿屋へもどりましたが、宿屋ではたらく女の人はすでに宿屋から逃げ出した後で、どうしようもありません。
そこで三人の軍医は、おわびとして宿屋の亭主から三人が一生のんびりと暮らしていけるだけの大金をもらったということですが、彼らにしてみればそんなお金よりも、自分の手や目や心臓が戻ってきた方が、どんなに幸せだったことでしょう。
おしまい
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