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第30話

旅にでた神さま

旅にでた神さま
アメリカの昔話 → アメリカの国情報

 むかしむかし、この世界をつくったインデアンの神さまが旅にでました。
 そして、雪がいっぱいつもった村にきました。
 村にはいると、おばあさんがないています。
「どうかしたのですか?」
 神さまがたずねると、おぱあさんがこたえました。
「いつまでも冬がつづいたので、食べ物がなくなったのです」
 神さまがしらべてみると、冬の大すきな、となり村の酋長(しゅうちょう)が、春と夏と秋を大ジカの皮でつくった三つの袋にしまいこんでいるのです。
 神さまは、シノビアシとトオナゲという二人の若者と、ねぼすけグマのチカラモチをつれてとなり村へでかけました。
 チカラモチは、
「ねむくてたまらん」
と、ぐちをこぼしながら、フラフラついてきました。
 となり村の家いえは、雪の下にうずまりそうになっています。
「チカラモチは、むこうのおかにかくれていなさい。シノビアシは酋長の家にしのびこみ、トオナゲは戸口のところで待っていなさい」
 神さまは、タール(→石炭や木材などを乾留するときにできる黒色の粘りけのある液体)のかたまりをシノビアシにわたしていいました。
「酋長の家の中にはおばあさんがいるから、このタールでおばあさんの口をふさいで、春のはいった袋をほうりだしなさい。トオナゲはその袋をおかにむかってなげ、チカラモチはその袋をすばやくやぶってしまうのだよ」
 シノビアシはそっと家の中へしのびこむと、火にあたるふりをして、手の中のタールをとかしました。
 やわらかくなったとき、
「春のはいった袋はどこだ?」
と、たずねました。
「あたまの上にぶらさがっている、まんなかの袋だよ」
 おばあさんがこたえたとたん、シノビアシはタールでおばあさんの口をふさぎ、春のはいった袋をつかんで戸の外へなげました。
 トオナゲは袋をつかむや、矢をいるように空高くほうりなげました。
 おかにかくれていたチカラモチは、袋をうけとめると、やぶってしまいました。
 すると、あたたかい風がながれでて、雪が見るまにとけていきました。
「春がきたぞ!」
 ねぼすけグマは、やっと、はっきりと目をさましました。
 神さまは、また旅をつづけて、大きな森の近くにある村につきました。
 あたりは、まっくらですが、森のなかだけ大火事のように、明るくかがやいています。
 ふしぎに思ってしらべてみると、なんと、お日さまがアミの中であばれながら、
「たすけてくれ! 出してくれ!」
と、さけんでいるではありませんか。
 神さまは、村の人にわけをたずねました。
 そのわけは、こんなでした。
 きのうのこと、ある若者がぬれた大シカの皮の服を、かわかしていました。
 するとお日さまが、その服を焼いてしまったのです。
 若者はおこって、かみの毛で大きなアミをつくり、森の中に、わなをしかけておきました。
 すると、まんまとそのわなに、お日さまがかかってしまったのです。
 ところが、こんどはお日さまをアミから出そうとして近よると、目がくらんで焼けそうになり、アミをやぶることができないのです。
 これをきいて神さまは、モグラをアミの中にいれました。
 モグラは、かみの毛でつくったアミを、いっしょうけんめいにかんで、とうとうかみ切りました。
 お日さまが大よろこびで空へとびあがると、やっと明るい朝になりました。
 けれどもそのときから、モグラは目が見えなくなってしまいました。
 かわいそうに、お日さまの光に目を焼かれてしまったからです。
 ある日、神さまは森のなかで雨やどりをしていました。
 からだがぬれて寒くなったので、たき火をしようと思いました。
 すると、なにかが、大きなスギの木のかげにかくれています。
 それは、人食いのかいぶつでした。
 人食いがどんなにおそろしいか、そしてどんなに足がはやいか、神さまはよくしっていました。
 人食いをつくったのは、ほかでもない、神さまだったからです。
 神さまは、死にものぐるいでにげました。
 そして、やなぎの木にかくれました。
 人食いは、森のどの木にもまけないくらいの大男でした。
 人食いは、すぐに神さまをみつけると、かみの毛をもってぶらさげました。
「わたしがおまえをつくってやったのだ。ころさないでくれ」
 神さまは、たのみました。
 しかし、人食いは神さまをゆるしません。
「この雨で、食べ物がない。おまえを丸焼きにしてたべるから、かわいた木をさがしてこい」
 しかたなく神さまは、できるだけゆっくり、木をあつめました。
 そしてだれか、たすけてくれるものはいないかさがしました。
 木があつまると、人食いは火をもやしながら、
「こんどは、おまえをつきさして火にあぶる棒(ぼう)をみつけてこい」
と、神さまにいいつけました。
 焼きグシにする棒は、たくさんありましたが、神さまはみつからないふりをして、小さい声でたすけをよびながらさがしまわっていました。
「おや? おじいさん。どうしたのですか?」
と、草むらから、小さいイタチが顔を出しました。
 神さまからわけをきくと、イタチはチョロチョロと、人食いのそばへはしっていきました。
 人食いは、あたたかいたき火にあたりながら、ゴーゴーと、いびきをかいてねむっています。
 人食いのはく息で、イタチは、はねとばされそうです。
 人食いが口を大きくあけたとたん、イタチはピョーンと、口の中へとびこみました。
 まっくらなのどを通り、腹の中へすべりおちると、イタチは人食いの心臓をたべてしまいました。
 そして、人食いは死んでしまいました。
「ゆうかんなイタチよ。これからはおまえのからだを、冬は雪よりも白く、夏は枯れ草や木とおなじうす茶色にして、敵にみつからぬようにしてあげよう」
 神さまは、礼をいいました。
 それからイタチの色が、冬と夏でかわるようになったのです。

おしまい

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