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第34話
美しい妹と九人のにいさん
ロシアの昔話 → ロシアの国情報
むかしむかし、猟師(りょうし)の夫婦(ふうふ)がくらしていました。
二人には、九人の息子がいました。
猟師は年をとったので、自分の死んだあとのことを考えて、九人の息子に財産(ざいさん)をわけてやりました。
一番上の息子にはウマを、
二番目の息子にはメスウシを、
三番目にはオスヒツジを、
四番目にはメスヒツジを、
五番目には子ブタを、
六番目には小船を、
七番目には、魚をとるためのアミを、
八番目には、ウマの毛でつくったワナを、
九番目には、弓をやることにしました。
「もし、十番目の息子が生まれたら、その子に家をやることにしよう」
と、猟師はいいました。
ところがまもなく、十番目の子どもが生まれることがわかりました。
それを知った九人の兄弟は、集まってそうだんしました。
「どうせこの家は、生まれてくる弟のものだ。しかたがない。みんなで森へいってくらそう」
兄弟は、お父さんとお母さんのところへいって、こういいました。
「これから森ヘいって、狩りをしてこようと思います。いつ帰れるかわかりませんが、心配しないでください。もし妹が生まれたら、屋根のうえに糸車をあげてください。弟だったら、カマをあげてください」
兄弟たちがいってから、いく日かたちました。
そして猟師の家には、女の子が生まれました。
お母さんは兄弟たちからたのまれていたことを思いだして、屋根の上に糸車をおきました。
ところが、わるい魔法使いのシュビャタルが、このことを知りました。
シュビャタルは、猟師の家の屋根に糸車があがったのを見ると、夜中にその糸車をカマにとりかえておきました。
さて、森の中の九人の兄弟は、なつかしい家のことをいつも思いだしていました。
ある日、九人が森のはずれから家の屋根をながめると、屋根の上にカマがあがっていました。
「やっぱり、弟が生まれたんだ。弟が家をもらうんだから、おれたちはこのまま森でくらそう」
兄弟たちは、森のおくヘひきかえしました。
兄弟の妹はスクスクとそだち、それはそれは美しい、心のやさしい娘になりました。
妹は、お母さんがまい晩のように、箱から九枚の男のシャツをとりだしては、なみだを流しているのに気がつきました。
「お母さん。どうしてなくの?」
「娘や。おまえには、ほんとうは九人の兄さんがいるんだよ。おまえの生まれるすこしまえに、そろって森へ狩りにいったきりでね。生きているのか死んでいるのか、わからないんだよ」
そのときから妹は、兄さんたちのことがわすれられなくなりました。
そしてとうとう、自分でさがしにいこうと、けっしんしました。
お母さんは、ないてひきとめましたが、でも、どうしてもとめられないことがわかると、娘のために旅の用意をしてやりました。
肉まんじゅうを焼いて、九枚のシャツを袋(ふくろ)に入れました。
そして、イヌのシャーボチカを、いっしょにつれていくようにいいました。
妹はシャーボチカをつれて、旅にでかけました。
すると、どこからともなく、きたないむしろを着た一人の女がでてきて、妹のそばにやってきました。
「こんにちは、娘さん。一人旅はさびしいものです。いっしょにいきましょう」
その女は、あのおそろしい、シュビャタルだったのです。
でも妹は、なにも知らずに、喜んでいっしょに歩いていきました。
二人は、湖(みずうみ)にきました。
「娘さん、水あびをしませんか?」
と、シュビャタルはさそいました。
するとシャーボチカがけたたましくほえたて、妹の服のすそをくわえてさけびました。
「ワンワン、いけません、いけません」
シュビャタルはおこって、シャーボチカに石をなげつけました。
けがをしたシャーボチカは、片足をひきずって、ついていきました。
また、湖にやってきました。
シュビャタルはまた、妹を水あびにさそいました。
けれどもシャーボチカがほえたてて、こんども水あびをさせませんでした。
シュビャタルはますますおこって、シャーボチカにまた石を投げつけました。
またけがをしたシャーボチカは、やっとのことで、妹についていきました。
またまた、湖がありました。
シュビャタルはなんとかして、妹に水あびをさせようとしました。
けれどもまたもや、シャーボチカにじゃまされてしまいました。
そこでとうとう、シュビャタルはシャーボチカを殺してしまいました。
一人のこされた妹は、けっきょく、水あびをさせられました。
そのあいだに、シュビャタルは妹の服を着こみ、肉まんじゅうや兄弟のシャツをとりあげました。
かわいそうな妹は、シュビャタルのむしろを着なければなりません。
ところがそのむしろの中には、毒(どく)の針(はり)が入れてあったので、妹はその毒で、ものがいえなくなってしまいました。
口がきけない妹は、なくなくシュビャタルのあとからついていきました。
だいじなシャツをとりあげられてしまっては、にげだすこともできません。
シュビャタルは、兄さんたちの住んでいるところを知っていました。
森の中に、きいろい花が一面にさいている野原があり、そのまんなかにたっている家が、兄さんたちの家でした。
中にはいっていくと、九人の若者がグッスリとねむっていました。
シュビャタルは、妹をだんろのかげに追いやると、袋から九枚のシャツをだして、一人一人のまくらもとにおきました。
肉まんじゅうも、そばにおきました。
そして、兄弟が目をさますのをまちました。
やがて、九人の兄弟が目をさましました。
「おや? これはぼくのシャツだ。お母さんがぬってくれたシャツだ」
みんなはおどろきながら、シャツを着ました。
ふと見ると、肉まんじゅうがあります。
さっそくかじって、口ぐちにさけびました。
「こんなにうまい肉まんじゅうは、お母さんしかつくれないはずだ」
そのときシュビャタルは、みんなの前へ走りだして、さもうれしそうな声をあげていいました。
「兄さんたち。わたしがおわかりになりませんか。あなたがたの妹です。シャツとおまんじゅうを持って、兄さんたちにあいにきたのです」
兄さんたちは、夢かとばかり喜んで、シュビャタルをだきしめました。
一番上の兄さんが、だんろのかげでないている娘を見つけて聞きました。
「あれは、だれだろう?」
「ああ、あれは、わたしがつれてきた娘よ。なにもわからないバカな子ですから、あそこにすわらせておけばいいのよ」
と、シュビャタルはすましてこたえました。
シュビャタルは、ほんとうの妹がつらい思いをしているのに、兄さんたちがなにひとつ知らないのが、うれしくてなりませんでした。
つぎの日から、妹はブタ飼(か)いをさせられました。
たべるものといえばブタのえさと、カエルのおまんじゅうしかもらえませんでした。
シュビャタルは妹を森へやるまえに、むしろの服の中から、毒針をひきぬきました。
ブタを集めるのに声がでないと、こまるからです。
妹はブタを飼いながら、空をとぶガンにはなしかけました。
「ガンよ、ガンよ。聞いておくれ。お父さんとお母さんにつたえておくれ。『あなたがたの娘は、兄さんのところでブタを飼っています。だんろのかげでないています。魔法使いのシュビャタルがわたしにばけて、兄さんたちをだましています』と」
日がくれると、妹はブタを集めて帰りました。
シュビャタルは、道のとちゅうでまちかまえていて、毒針をさしました。
妹はまた、口がきけなくなりました。
妹はだんろのかげで、ひと晩じゅうないています。
それを見て、かわいそうに思った一番下の兄さんは、あくる日、ブタ飼いにいく妹のあとを、こっそりつけていきました。
きのうのようにシュビャタルは、むしろの服から毒針をぬきとりました。
森へいくと、妹は空をとぶガンに、なきながらはなしかけました。
「ガンよ、ガンよ。聞いておくれ。お父さんとお母さんにつたえておくれ。『あなたがたの娘は、兄さんのところでブタを飼っています。だんろのかげでないています。魔法使いのシュビャタルがわたしにばけて、兄さんたちをだましています』と」
木のかげでそれを聞いた、一番下の兄さんは、とびだしていって妹をおもいきりだきしめました。
妹はいままでのことを、のこらず兄さんにはなしました。
二人がブタを追いながら帰っていくと、道のとちゅうにシュビャタルがまっていました。
妹をまもりながら、兄さんはさけびました。
「にくい魔法使いめ! よくもたいせつな妹をひどいめにあわせたな。もうゆるさんぞ」
いつのまにか、あとの兄弟たちもやってきて、シュビャタルをとりかこみました。
力もちの兄弟たちには、さすがのシュビャタルもかないませんでした。
兄さんたちはシュビャタルの服をぬがせて、妹に着せました。
シュビャタルは、グルグルまきにしばられて、森の中においてけぼりにされました。
そして九人の兄さんは妹をつれて、なつかしいお父さんとお母さんの家へ帰っていきました。
おしまい
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