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第65話
ちいさなヘーベルマン
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むかしむかし、お月さまがときどき、人間とおしゃべりしていたころのお話です。
ある夜、お月さまは、ヘーベルマンという名前の男の子を見ていました。
へーベルマンは、ベッドにはいっているのに、目はパッチリあけて片足を高くあげてます。
その足にシャツをひっかけて、シャツのそでを両方の手でひっぱって、ふーっと息をふきかけます。
するとシャツはフワッとふくらんで、風をうけて走る船の帆(ほ)そっくりになりました。
そのとき、お月さまはちょっぴりサービスしたくなって、月の光をヘーベルマンのまどに投げかけて、月の道を作ってあげました。
そのとたん、へーベルマンの車つきベッドはフワリとうかび、月の道へとすべり出したのです。
月の道は町の通りへと続き、ヘーベルマンのベッドは、通りをガラガラと音をたてて走り出しました。
ヘーベルマンは、それはもう大喜び。
「お月さま。もっとスピードあげてよ」
そうさけんで、ほっぺをふくらませ、ふーっとシャツの帆をふくらませます。
ガラガラ、ガラガラと、ベッドの船は走ります。
夜中の静まりかえった通りをさんざん走りまわると、お月さまが言いました。
「さあ、へーベルマン、そろそろおしまいですよ」
ヘーベルマンは、お月さまをにらんでいいました。
「やだやだ。まだまだ!」
へーベルマンは息を吹いて、帆をふくらませ、ベッドの船を森へと走らせました。
お月さまは、ベッドの船が木にぶつかりやしないかと、ヒヤヒヤしながら月の光で森を明るくてらします。
けれどヘーベルマンは、お月さまの心配などおかまいなしです。
「おーい、だれが遊ぼうよー」
でも、動物たちはグッスリねむっていて、起きては来ません。
お月さまは、言いました。
「ヘーベルマンも、もう帰ってねましょう」
「やだやだ。まだまだ!」
へーベルマンは、ますます目をパッチリ開けて、森をぬけて、新しい町から知らない村へ、とうとう世界一周走りまわりました。
ついていったお月さまは、もうヘトヘトです。
「ヘーベルマン、おしまいにしてちょうだい」
「やだやだ。まだまだ!」
へーベルマンは、大きく大きく息を吸いこむと、ふーっと思いっきりシャツの帆をふくらませました。
するとベッドの船はいきおいがつきすぎて、ビューと空へ飛んで行きます。
おどいたのは、夜空にかがやく星たちです。
「キャアー! こわい!」
と、あっちへ逃げこっちへ逃げ、夜空は流れ星だらけでメチャクチャです。
しかしへーベルマンは、楽しくてたまりません。
流れ星を追いかけまわして、とくべつに大きな星をつかまえようとしました。
「へーベルマン、今度こそ、おしまい!」
お月さまがどなりましたが、
「やだやだ。まだまだ!」
ヘーベルマンは調子(ちょうし)に乗って、お月さまの顔の上をベッドの船で走りぬけました。
お月さまの顔の鼻の上に、ヒゲが二本つきました。
ヘーベルマンはそれを見て、ゲラゲラと笑いました。
お月さまはカンカンに怒って、月明りをパチッと消しました。
そのとたん、星たちも光るのをやめました。
たちまち、空はまっくらやみで、何も見えません。
へーベルマンは、あわててさけびました。
「お月さまー! 出てきてよー! お月さまー!」
自分の手も足も何も見えなくて、へーベルマンはこわくて泣き出しました。
すると、空がうっすらと明るくなりました。
「ああ、よかった。また、お月さまが出て来た」
へーベルマンがニッコリほほえむと、いきなりどなられました。
「わしの空でイタズラするのは、お前だな!」
それはお月さまではなく、ギラギラと光るお日さまでした。
お日さまは、やけどするくらいあつい光の手でへーベルマンをつかむと、それっ! と海にむかってなげました。
ドボーン!
へーベルマンは、海に落ちました。
「たすけてよー! もう悪いことはしませーん! ちゃんと言うことをききまーす!」
すると、お月さまがまた出てきて、ヘーベルマンをお家に返してくれたのです。
おしまい
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