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第68話

オンドリとひきうす

オンドリとひきうす
ロシアの昔話 → ロシアの国情報

 むかしむかし、あるところに、貧乏(びんぼう)なおじいさんとおばあさんがいました。
 家にはもう、なにも食べる物がありません。
 二人は森で、ドングリをひろって食べました。
 すると、ドングリがひとつ、おばあさんの手からころがって、床のすきまから地面におちてしまいました。
 しばらくしてドングリは芽(め)をだし、たちまち大きくなって、床をつきやぶるほどになりました。
 そこでおじいさんは、床板をはずしてやりました。
 するとこんどは、天井につっかえるほど、大きくなりました。
「かしの木よ、空にとどくほど大きくおなり」
 おじいさんは、じゃまな天井をこわしてやりました。
 かしの木は、ほんとうに空にとどくほど大きくなりました。
 あまり大きくて、上のほうは雲(くも)にかくれて見えません。
「いったい、この木はどこまでのびているんだろう」
 そう思ったおじいさんは、かしの木を、ドンドンドンドンのぼっていきました。
 てっぺんまでのぼると、そこは雲の上でした。
 みると目の前に、小さな家があります。
 中には、一わのオンドリと、ひきうすが、ポツンとおいてあるだけです。
「こんなあき家にオンドリをおいておくなんて、かわいそうに。このひきうすだって、まだつかえるのに」
 おじいさんはオンドリとひきうすを、だいじそうにかかえてもってかえりました。
「おばあさん、おみやげだよ」
 おじいさんはオンドリをトリ小屋にいれ、ひきうすでドングリをひきはじめました。
 するとふしぎなことに、ひきうすをまわすたびに、パンやまんじゅうが出てくるではありませんか。
 おじいさんとおばあさんは大よろこびで、パンとまんじゅうを、おなかいっぱいにたべました。
 このひきうすのうわさは、町にもつたわりました。
 そして、このうわさを耳にしたよくばり商人(しょうにん)が、さっそく、おじいさんとおばあさんのところへやってきました。
「ねえ、おじいさん、おばあさん。そのひきうすを売ってくれないかね。お金はいくらでもだすから」
「とんでもない! お金を山のようにつまれても、これを売るわけにはいきません」
 朝になりました。
 ところがたいへんなことに、ひきうすがありません。
 ゆうべ、おじいさんとおばあさんがねむっているすきに、商人がぬすんでしまったのです。
「命よりたいせつなひきうすがなくなってしまった。どうしよう?」
 おじいさんとおばあさんはガッカリして、すわりこんでしまいました。
 すると、うしろで声がしました。
「おじいさん、おばあさん、そんなにかなしまないでください。きっと、ぼくがとりかえしてきます」
 見ると、オンドリでした。
「ドロボウ商人め、きっとぼくがひきうすをとりかえしてみせるぞ」
 オンドリはいさましくさけぶと、とさかをピンと立てて、商人の家をめざしてとびだしていきました。
 とちゅうで、キツネにあいました。
「オンドリさん、どこへいくの?」
「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
「じゃ、ぼくもつれていってよ」
「いいとも。ぼくの羽のかげにかくれていきなよ」
 オンドリは羽を大きくひろげて、キツネをかくして道をいそぎました。
 つぎに、オオカミにあいました。
「おい、おい、オンドリくん、そんなにあわててどこへいくのさ」
「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
「じゃ、ぼくもつれていっておくれよ」
「いいとも。ここにかくれていきなよ」
 オンドリは、羽をひろげました。
 またすこしいくと、こんどはクマにあいました。
 クマもオンドリの羽のかげにかくれて、いっしょにいくことになりました。
 商人の家につくと、オンドリは門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
 商人は、おこってわめきました。
「あのオンドリをガチョウ小屋にぶちこんで、羽をむしらせてしまえ」
 だけど、オンドリだってまけていません。
 オンドリは、小さな声でいいました。
「キツネさん、ガチョウの羽をむしっておくれよ」
 キツネはオンドリの羽のかげからとびだすと、ガチョウの羽をかたっぱしからむしりとって、森へにげていってしまいました。
 オンドリはまた、門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
 商人はこんどは、オンドリをウシにふみつぶさせようとしました。
 ところが、オンドリの羽のかげからオオカミがとびだして、ウシ小屋じゅうのウシをやっつけて、森へにげていきました。
 オンドリはまた、ひきうすをかえせ! とさけびました。
 カンカンにおこった商人は、こんどはオンドリをウマ小屋へいれました。
 ウマにけとばさせようと、考えたのです。
 ところが、オンドリの羽のかげからクマがとびだして、ウマを一頭のこらずたおしてくれました。
 オンドリは、また門の上にとびのってさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
「いまいましいオンドリめ、ころしてやるぞ!」
 商人はオンドリをつかまえると、首をしめて、だんろの中にほうりこんでしまいました。
 ところが、その晩のことです。
 とつぜんだんろの中で、オンドリがさけびました。
「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
「あいつめ、まだ生きていたか!」
 商人はオンドリにとびかかろうとして、じぶんでだんろの中にとびこんでしまい、大やけどをしました。
 だんろから出たオンドリは、ひきうすをとりかえして、元気よく、おじいさんとおばあさんのところへかえっていきました。

おしまい

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