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第96話
ロンドン市長のディック
イギリスの昔話 → イギリスの情報
むかしむかし、イギリスの田舎町に、ディックと言う名前の子どもがいました。
ディックはお父さんもお母さんもいない、可愛そうなみなしごです。
ある時、親切なおじさんが言いました。
「坊や、一人ぼっちでこんな田舎に住んでいては駄目だよ。居場所がないのなら、ロンドンで働きなさい。ちょうどわたしはロンドンに行くから、一緒に連れて行ってあげよう」
ディックは喜んで馬車に乗せてもらい、ロンドンにやって来ました。
「よし、頑張って働くぞ。頑張って働いて、きっと偉くなるんだ」
ディックは一生懸命に働くところを探しましたが、誰もみなしごのディックをやとってはくれません。
お金も使い果たし、食べる物も泊まるところもなく、疲れ切ったディックが大きな屋敷の門の前に倒れていると、屋敷の主人のフィッツウォーレンさんが気の毒に思って、ディックを召し使いにやとってくれたのです。
「頑張って働いて、フィッツウォーレンさんに恩返しをするんだ」
ディックはせっせと働いたので、家の人たちにとても可愛がられました。
すると一緒に働いている召使いたちがヤキモチをやいて、ディックに色々と意地悪をしました。
いつもイジワルをされて、ディックは何度もくじけそうになりましたが、そんな時はこの屋敷のお嬢さんのアリスが、
「ディック、負けないで。わたしはあなたの味方よ」
と、いつもやさしくなぐさめてくれたのです。
さて、ディックは屋敷の屋根裏の部屋で寝泊まりをしていますが、この屋根裏部屋はネズミの住みかで、いつもネズミが我が物顔で走り回ります。
そこでディックは、町で捨てネコを拾ってきて飼い始めました。
するとネコはすぐに、部屋のネズミを退治してくれました。
ディックは自分の食べ物をネコに食べさせて、大切に育てました。
ところが、それを知った召使い仲間が、
「新入りのくせにネコを飼うなんて、なまいきだわ!」
と、ディックに内緒でネコを連れ出し、
「このネコがイタズラをして困ります。どこかへ連れて行ってください」
と、知り合いの船長に渡してしまいました。
大切なネコがいなくなった理由を知ったディックは、
「もう頭に来た! ここまでイジワルをされて、一緒に働けるものか!」
と、屋敷を飛び出しました。
ディックがあてもなく町を歩いていると、教会の鐘の音が、
♪負けるな、ディック
♪くじけるな、ディック
♪頑張れば
♪いまに市長になれるんだ
そんなふうに、聞こえてきました。
「そうだ、頑張ればぼくだって、ロンドン市長になれるんだ」
ディックは思い直して、また屋敷に引き返しました。
そして今まで以上に、まじめに働きました。
それから数ヶ月たった、ある日の事です。
一人の立派な男が、ディックを訪ねて来ました。
男の人は、召使い仲間がいつか、ディックのネコを渡した船長でした。
船長は、にこにこして、
「やあ、きみがディック君だね。きみのネコが高く売れたから、お金を届けに来たよ」
と、金貨のつまった袋を、ディックに差し出したのです。
「えっ? ネコがこんな大金に?」
びっくりしたデイックが、船長に理由を聞くと、
「わたしは、あのネコを船に乗せて航海に出たんだが、途中で海が荒れて見しらぬ島に流れついたんだ。
ところがこの島は、ネズミが多くて困っているという話でね。
わたしはさっそく、あのネコにネズミを退治させたよ。
すると王さまが大変喜んで、その不思議な動物をぜひゆずって欲しいとおっしゃったんだ。
それでネコと引き替えに、この金貨を頂いたのさ。
だからこれはみんな、きみの金貨なんだよ」
船長はそう言って、帰って行きました。
突然にお金持ちになったディックは、そのお金で学校へ行って一生懸命勉強して、ついにロンドン市長になったのです。
そして屋敷のお嬢さんだったアリスと、結婚したのです。
アリスもディックの仕事を一生懸命に手伝い、アリスはロンドン市民から母親の様に慕われました。
1780年頃に戦争で焼けてしまいましたが、ロンドンの郊外にはネコを抱いたディック市長の銅像が立っていたそうです。
おしまい
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