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第105話

ヒツジに生まれ変わった娘

ヒツジに生まれ変わった娘
中国の昔話 → 中国の情報

おりがみをつくろう ( おりがみくらぶ より)
羊の折り紙ひつじ

 むかしむかし、中国の役人に、ケイソクという人がいました。
 彼には一人娘がいて、目に入れても痛くないほど可愛がっていたのですが、可哀想な事に、娘は十歳の時に死んでしまったのです。
 それから二年ほどが過ぎたある日、ケイソクがお客さんにふるまうために市場からヒツジを買ってきてつないでおくと、その夜、母親の夢枕に死んだ娘が現れたのです。
 娘が身につけている青い着物に青い玉のかんざしは、娘が死ぬ前に着ていた衣装です。
 娘は、母親に言いました。
「お母さん、お久しぶりです。
 わたしはお父さんやお母さんに可愛がってもらって、本当に幸せでした。
 でも、その思い上がりからか、わたしは親に黙って色々物を勝手に使ったり、人にあげたりしました。
 盗みではありませんが、その罪を償う前にわたしは死んでしまいました。
 そして神さまに、その罪は生きている間に償わなければならないと言われました。
 わたしは今、ヒツジに生まれ変わっており、その時の罪を今日償うことになりました。
 お客さんにふるまうために買ってこられたヒツジの中に、毛が青白いヒツジがいますが、それがわたしです。
 寿命で死ぬのは仕方ありませんが、殺されるのは嫌です。
 怖いです。
 お母さん、どうか、わたしを助けてください」
 目を覚ました母親はびっくりして、さっそく調理場に行ってみると、白いヒツジに混じって毛の青白いヒツジが一頭いるではありませんか。
 毛の青白いヒツジは母親と目が合うと、悲しそうに涙をこぼしました。
(このヒツジが、娘なのだわ!)
 母親はあわてて、調理人を呼びつけて
「このヒツジを殺すのは待ってちょうだい! 主人は出かけて留守ですが、今から探しに行って、主人に事情を話して殺すのは許してやるつもりです」
と、言いました。
 やがて母親と入れ違いに父親が出先から帰ってくると、宴の料理が遅れているのに気が付きました。
「何をしている。料理が遅れているではないか!」
 叱られた調理人たちは、
「ですが、奥さまがヒツジを殺すなとおっしゃったのです。ご主人さまがお帰りになったら、事情を話して、殺すのは許すつもりだと」
と、言いましたが、父親はすっかり腹を立てて、
「ヒツジを許す? 何を馬鹿な事を。お客さまが待っているのだぞ。さあ、早く仕事をすすめるのだ」
と、言うので、調理人たちは仕方なく、ヒツジを料理するために天井から吊り下げました。
 そこへ客人たちがやってきて、料理されようとしているヒツジを見てびっくりしました。
 客人の目にはそれがヒツジではなく、十歳ばかりの可愛らしい女の子を、髪に縄をつけてぶら下げているように見えたからです。
 しかもその女の子は、悲しげな顔をして、
「わたしはこの家の主の娘でしたが、ヒツジに生まれかわり、殺されようとしています。どうか皆さま、命をお助けくださいませ」
と、言うではありませんか。
 そこで客人たちは口々に、
「何て事だ。料理人よ、決してヒツジを殺してはなりませんぞ。はやく主人に言って、やめさせなければ」
と、あわてて出ていきました。
 けれど調理人には、つるしているのがどう見てもヒツジにしか見えませんし、その声も、ただのヒツジの鳴き声に聞こえるのです。
「奥さまも、お客さまも、おかしな人たちだ。さあ、はやく料理をしないと、ご主人さまに叱られてしまう」
 料理人はそう言うと、涙を流すヒツジを殺して、さまざまな料理を作りました。
 やがて客人の前に美味しそうなヒツジ料理が並べられましたが、客人たちは一口も箸をつけずに帰ってしまいました。
「おや? どうして料理を食べないのだろう?」
 遅れてやって来た主人が、不思議に思って客人にわけを聞くと、
「あれほど探していたのに、あなたは今までどこへ行っていたのですか? あのヒツジは、あなたの娘さんの生まれ変わりなのですよ」
と、いうではありませんか。
 ちょうどそこへやってきた母親は、料理されたヒツジを見て泣き崩れました。
 やがて母親から事情を聞いた主人は、悲しみの余り病気になり、そのまま死んでしまったそうです。

おしまい

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