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第111話
マメ子と魔物
イランの昔話 → イランの国情報
むかしむかし、あるところに、お百姓(ひゃくしょう)の夫婦(ふうふ)が住んでいました。
二人はとても仲の良い夫婦でしたが、ただ悲しい事に、子どもが一人もいませんでした。
ある日の事、おかみさんがマメを入れたナベを、かまどにかけました。
その時、マメが一粒こぼれ落ちましたが、おかみさんは気がつきませんでした。
そこへ、近所のおかみさんたちがやって来て、
「これから娘たちを、畑ヘ落ちぼ拾い(→収穫の後に取り残した作物を拾いに行く事)にやるところですよ。おたくの娘さんもいかせたら?」
と、誘ってきました。
それを聞いたおかみさんは、腹を立てて怒鳴りました。
「まあ、失礼な。人をからかうつもりなの! うちに子どもがいないのを知っているくせに!」
ところが突然、かまどのかげから小さな声が聞こえてきました。
「お母さん。あたしがここにいるじゃありませんか。あたし、みんなと一緒に行きたいわ」
おかみさんがビックリしてかまどの後ろをのぞくと、何とそこにはマメ粒の様に小さな女の子が立っていたのです。
「まあ、何てことなの!」
おかみさんは大喜びで女の子を抱き上げると、マメから生まれた女の子を『マメ子』と名付けました。
マメ子はさっそく、他の女の子たちとムギの落ちぼを拾いに行きました。
やがて日が沈みかけたので、女の子たちは帰る仕度を始めました。
ところがマメ子は、帰るのを嫌がりました。
「もうちょっとだけ、ここにいましょうよ。ちっとも遊ばないで帰るなんて、つまらないわ」
「じゃあ、ちょっとだけ遊びましょう」
女の子たちは、少しだけ遊ぶつもりでした。
ところが気がついてみると、いつの間にか日はとっぷり暮れて、あたりは真っ暗になっていました。
さあ、大変です。
大急ぎで、帰らなくてはなりません。
それと言うのも、この森には恐ろしい魔物が住んでいるからです。
女の子たちは慌てて帰ろうとしましたが、その時にはもう遅く、魔物が森の入り口でみんなを待ち構えていたのです。
(ほう、これはうまそうだ。今夜は久しぶりに、腹一杯のごちそうにありつけるな)
魔物は女の子たちに近づくと、優しそうな顔で声をかけました。
「いけない子だね。こんなに暗くなるまで遊んでいるなんて。さあ、ここにいてはオオカミに食べられてしまうから、今夜はわしの家ヘ来て泊まりなさい」
こうなっては仕方がありません。
女の子たちは恐る恐る、魔物の後について行きました。
魔物は女の子たちを自分の家ヘ連れて行くと、さっさと寝るように言いました。
しばらくたって魔物は、
「もう、みんな眠ったかね?」
と、声をかけました。
するとマメ子が、大声で叫びました。
「眠っていないわ。まだ起きているわ」
「どうして、眠らないんだね?」
「だって、家では毎晩、眠る前にケーキとタマゴ焼きを食べていたんですもの。それを食べないと眠れないわ」
魔物は仕方なく、ケーキとタマゴ焼きを作りました。
「みんな起きて! ごはんを食べましょう」
マメ子が叫ぶと、女の子たちは飛び起きました。
そしてケーキとタマゴ焼きを食べ終わると、女の子たちはまた眠ってしまいました。
けれどもマメ子は、まだ眠りませんでした。
またしばらくたって、魔物は声をかけました。
「もう、みんな眠ったかね?」
マメ子が、答えました。
「ええ、みんなは眠っているわ。でも、あたしは起きているわ」
「お前は、どうして眠らないんだ?」
「だって、家では毎晩、夕ごはんの後でお水をもらうんですもの。それもただのお水じゃなくて、スイショウ山の向こうの光の海からくんで来たお水よ。それもひしゃくじゃなくて、ザルでくんで来たお水よ」
「ちぇっ! 何て我がままな娘だろう」
魔物は仕方なくザルを持って、はるばるスイショウ山の向こうの光の海へ水をくみに行きました。
そしてその間に、夜が明けてきました。
マメ子は女の子たちを起こすと、大急ぎで逃げ出しました。
ところがマメ子は、自分の拾った落ちぼを魔物のところに忘れてしまったのです。
「みんな先に行っててね。あたし、すぐ帰って来るから」
マメ子は魔物の家へ、落ちぼを取りに戻りました。
すると魔物はすでに帰って来ていて、マメ子を捕まえると袋に入れました。
「この小娘め、よくも他の娘を逃がしたな。お仕置きをしてやるぞ」
魔物はマメ子をビシバシ叩く為に、木の枝を探しに行きました。
でもそのすきに、マメ子は袋に穴を開けて外に逃げ出したのです。
そして魔物の家のネコを袋に入れると、自分は部屋のすみに隠れました。
木の枝を拾って来た魔物は、さっそく袋を打ち叩きました。
「ニャーオン!」
袋の中にいたネコが、びっくりして声をあげます。
「こいつめ。今度はネコの真似をするのか。もう騙されないぞ!」
魔物は、何度も何度も袋を叩きました。
すると袋が破れて、中から本物のネコが転がり出たのです。
「ああ、わしの大事なネコが!」
さあ、魔物の怒った事。
隠れていたマメ子は、また捕まってしまいました。
「もう許さないぞ。お仕置きはやめて、今すぐ食ってやる! さあ言え、お前の食べ方は、どんなのが一番うまいんだ」
マメ子は落ちついて、こう言いました。
「とびっきりの、とってもおいしい食べ方あるわ。まず、かまどにまきをいっぱい燃やす。そしてケーキを焼くの。焼きたてのケーキの間にあたしをチーズみたいにはさんで食べれば、最高においしいわよ」
「なるほど、確かにうまそうだ。よし、その通りに食ってやる。焼きたてのケーキの間にはさんで食ってやる」
魔物はさっそく、かまどに火を起こして、まきをどんどん燃やしました。
そして粉をこねると、たいらにのばしました。
「さあ、これでよし」
魔物はねり粉をかまどにかけようとして、かがみ込みました。
するとその時を待っていたマメ子が、ありったけの力を出して、
「えい!」
と、魔物をかまどの中ヘ押し倒したのです。
「ウギャーーー!」
魔物はたちまち、焼け死んでしまいました。
こうして魔物をやっつけたマメ子は、落ちぼを入れて袋を持って家へ帰りました。
おしまい
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