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第127話
小クラウス、大クラウス
アンデルセン童話 → アンデルセンについて
むかしむかし、ある村に、クラウスと言う名前のお百姓が二人がいました。
一人のクラウスは馬を四頭持っていましたが、もう一人のクラウスは一頭しか持っていません。
そこで村人たちは四頭の馬を持っている方を大クラウス、一頭しか持っていない方を小クラウスと呼んでいました。
二人は自分の畑をたがやすために、馬を貸したり借りたりしていました。
心優しい小クラウスは、たった一頭の馬を六日間も大クラウスに貸してやりました。
ところが大クラウスは四頭の馬をたった一日、それも日曜日にしか貸してくれませんでした。
だから日曜日が、小クラウスにとって一番忙しい日になりました。
村人たちが楽しそうに教会へ行くのに、小クラウスだけは汗まみれで働かなければなりません。
でも働き者の小クラウスは、平気です。
ある日曜日、小クラウスは大張り切りで馬に言いました。
「ほーれ、がんばれよ、おれの馬たちよ」
するとそれを聞いた大クラウスが、小クラウスに怒りました。
「何を言ってやがる! お前の馬は、たったの一頭だけじゃないか。今度同じ事を言ったら、お前の馬を殺してやるからな! わかったか!」
ところが小クラウスは張り切りすぎて、また言ってしまったのです。
「ほーれ、がんばれよ、おれの馬たちよ」
「また言いやがったな。もう許さないぞ!」
怒った大クラウスは、オノで小クラウスの馬を殴り殺してしまったのです。
小クラウスは泣きながら馬の皮をはぐと、町へ売りに出かけました。
途中まで行くと日がくれたので、小クラウスは近くのお百姓家の戸を叩きました。
「すみません。どうか、一晩泊めてください」
すると、おかみさんが出てきて、
「だめだめ。主人が留守だから、泊められないよ」
と、戸を閉めてしまいました。
仕方がないので小クラウスは、お百姓家のなやに忍び込んで寝る事にしました。
なやに忍び込んだ小クラウスは、窓からお百姓家の中が丸見えだという事に気がつきました。
「わあ、テーブルの上には、ブドウ酒や焼き肉が並んでいるぞ。うまそうだなあ」
小クラウスはよだれをたらしながら、家の中をのぞいていました。
さて、のぞかれているとは知らないおかみさんは、神父さんと一緒に楽しい食事をしていました。
実はここの主人のお百姓は、神父さんが大嫌いなのです。
だから、主人のお百姓はいつも、
「神父という奴らは、けしからん! おれたちが汗水たらして働いて作った食べ物や金を『神さまへのほどこし』だといって奪いやがる! だいたい神さまが食べ物を食べたり、金を使うはずがないだろう! やつらは、泥棒と一緒だ!」
と、言うのです。
そこでおかみさんは主人が留守の間に神父さんを招待して、ごちそうをしていたのです。
ところがその時、急に主人が帰って来ました。
「あら大変! 神父さま、早くここに隠れてください」
おかみさんはあわてて、神父さんを部屋のすみの大きな箱の中に押し込めました。
それからごちそうは、かまどの奥に隠しました。
さて、何も知らない主人が、馬をなやにつなごうとして小クラウスを見つけました。
「お前さん。そこで何をしているんだ?」
小クラウスは怒られると思って、しょんぼりと答えました。
「はい、実は町へ行く途中で、日がくれてしまったのです。それで」
とこが主人は、気前良く、
「何だ。それなら、わしの家にくればいい」
と、小クラウスを招待してくれたのです。
二人が家に入ると、おかみさんはすました顔で言いました。
「おや、お帰り。お前さん、ちょうどおかゆが煮えているよ」
そして二人に、おかゆを出しました。
おかゆをすすっているうちに、小クラウスはさっき見たごちそうの事を思い出しました。
(ああ、あのごちそうが食べたいなあ)
そう考えながら、ついうっかりと足元の馬の皮の入った袋をふんでしまいました。
ギュッ!
「おや? 今の音は何だね?」
主人が、小クラウスにたずねました。
袋を踏んだ音なのですが、小クラウスは名案を思いついて、こう答えました。
「ああ、実はこの袋の中には魔法使いがいてね。その魔法使いが『かまどの奥を見てみろ。いい物がある』と、言っているのさ」
「へえ、かまどの奥をねえ」
主人はさっそく、かまどの奥をのぞき込んで叫びました。
「おっ、ごちそうがあるぞ! それにブドウ酒もだ!」
主人と小クラウスは、ごちそうとぶどう酒を手に入れてすっかり上機嫌です。
そして酔っぱらった主人が、
「実はな、わしは前から一度、悪魔が見たいと思っていたんだ。あんたの魔法使いに、頼んでくれないか?」
と、言いました。
「いいでしょう。頼んでみましょう」
そこで小クラウスは、また馬の皮をギュッと踏みつけてから答えました。
「ふむふむ。『部屋のすみの箱には、神父さんの姿をした悪魔が入っている』と、魔法使いは言っているよ」
「そうか、では、さっそく見てみよう」
主人は、箱のふたを開けてみました。
「うひゃー、本当にいたぞ!」
主人はすぐに箱のふたを閉めてカギをかけると、小クラウスに頼みました。
「頼む、わしにその魔法使いをゆずってくれ」
すると小クラウスは、わざと嫌そうな顔で首を横に振りました。
「これは、おいらの宝物だから」
「それなら、この大きなマスに山盛り一杯の金貨と、取り替えようじゃないか」
「うーん。一晩泊めてもらった恩もあるし、そんなに欲しいのならゆずってやってもいいよ。でもその代わり、あの悪魔の入っている箱をもらってもいいかな?」
「もちろんだとも」
こうして小クラウスは馬の皮と引き替えに、大きなマスに山盛りの金貨と神父さんの入っている箱を車につむと村へと向かいました。
小クラウスは村へ到着する前の大きな川の橋の上で車をとめると、わざと大きな声で言いました。
「ああ、この箱は重くてやりきれないよ。いらないから、川の中に投げ込んでやろう」
すると中から、神父さんがあわてて叫びました。
「ちょっと、待ってくれ! マスに山盛りの金貨をやるから、どうか川に投げるのだけはやめてくれ!」
「そうか、では箱から出してやろう」
小クラウスが箱のふたを開けてやると、神父さんは飛んで帰って、すぐに約束の金貨を持ってきました。
こうして小クラウスは、山盛りの金貨を車につんで村に帰ってきました。
さあ小クラウスが山盛りの金貨を持って帰ったのを見て、大クラウスはびっくりです。
「小クラウス。お前のようなまぬけが、どうやってそんなにもうけたんだ?」
「なあに、おいらはただ、馬の皮を売っただけさ」
「知らなかった。町では馬の皮が、そんなに高く売れるとは」
大クラウスは自分の家に帰ると、さっそく四頭の馬を殺して皮をはぎとりました。
それからその皮を町へ売りに行きましたが、誰も高いお金で買ってくれません。
大クラウスはカンカンに怒って、村へ戻ってきました。
「よくもだましたな、小クラウスめ!」
大クラウスは小クラウスを捕まえると、袋の中に押し込めました。
「川の中に、投げ込んでやるからな。覚悟しろ!」
大クラウスは、袋をかついで歩き出しました。
そして少し行くと、教会の前に出ました。
教会からは、美しいお祈りの歌が流れて来ます。
「そうだ、小クラウスを殺してしまう前に、お祈りをして行こう」
大クラウスは袋を教会の入り口に置くと、教会の中に入っていきました。
残された小クラウスは、せまい袋から何とか抜け出そうと力いっぱい体をくねらせました。
でも袋の口は、きっちりと閉まったままです。
「困ったな。どうしよう?」
するとそこへ、たくさんの牛を連れたおじいさんがやって来ました。
おじいさんは、もごもごと動いている袋を見て首をひねりました。
「はて? 袋の中で動いているのは、一体誰じゃな?」
小クラウスが、中から答えました。
「わたしは、かわいそうな人間です。だってまだ若いのに、天国へ行かなければならないのですからね」
するとおじいさんが、尋ねました。
「天国だって? その袋に入ると、天国へ行けるというのか?」
それを聞いた小クラウスは、ある名案を思いついて元気な声で叫びました。
「そうですよ。この袋の中でお祈りすれば、誰でも必ず天国へ行けるのですよ」
「それはすごい。すまんが、わしもその袋へ入れくれないか?」
「はい。では、わたしを袋から出して下さい」
こうして袋から出た小クラウスは、おじいさんと入れ替わりました。
おじいさんは、さっそく袋の中でお祈りを始めました。
やがて出てきたおじいさんは、晴れ晴れとした顔で言いました。
「ありがとう。これで残りの人生を、何の心配もなく過ごす事が出来るぞ。さて、袋へ入れてくれたお礼に、わしの牛を全部やろう」
そう言っておじいさんは、足取りも軽く来た道を帰っていきました。
さて、小クラウスは空になった袋の中に石や砂を入れると、袋の口をしっかりと閉じて牛を連れて村に帰ってきました。
そうとは知らない大クラウスは、お祈りをすませたあと袋をかついで川へ行きました。
「それ、流れていけ!」
大クラウスは袋を川へ投げ込むと、村に戻りました。
ところが村には、小クラウスがいるではありませんか。
「お前、生きていたのか?」
小クラウスは、ニコニコしてうなづきました。
「ありがとう、川に投げ込んでくれて。
だって、川に住んでいる女神から、こんなにたくさんの牛をもらってきたんだもの。
・・・でも、もっと深くもぐっていれば、もっとたくさんの牛をもらえたんだが」
「そいつはすごいな。川の底に行けば、もっとたくさんの牛がもらえるのか?」
「ああ、もらえるとも」
「では、すぐに川へ飛び込むとしよう。小クラウス、手伝ってくれ」
「いいとも」
大クラウスと小クラウスは、さっそく川べりへ出かけました。
大クラウスは大きな石を抱いて、袋の中にもぐり込みました。
そして、小クラウスに頼みました。
「さあ、これで間違いなく川の底へ行けるぞ。では小クラウス、おいらを川へ投げ込んでくれ」
「ようし、行くぞ」
小クラウスは大クラウスの入った袋の口をしっかりと結ぶと、袋を川へ投げ込みました。
それから大クラウスがどうなったのかは、誰にもわかりません。
おしまい
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