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第132話
万里のヒツジ
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むかしむかし、中国にアイダンという、とてもとんちの出来る男がいました。
アイダンは、ある事情から旦那のおかみさんを殺してしまいました。
そのおかみさんが、死んで天国行きか地獄行きかを決める閻魔庁へやって来ると、自分はアイダンに殺されたから、アイダンを罰して欲しいと閻魔大王に訴えたのです。
閻魔大王が閻魔帳を調べてみると、確かにアイダンがおかみさんを殺した犯人でした。
そこで閻魔大王は部下の白鬼と黒鬼に、アイダンを連れて来るようにと命令したのです。
二人の鬼が地上のアイダンの家までやってくると、アイダンは涼しい顔で言いました。
「これはこれは、閻魔さまのご命令とあらば、喜んでお供しましょう。ですが、ちょうどヒツジの舌を料理していたところです。行くのは、こいつを食べてからではいけませんかね?」
ヒツジの舌の料理と言うば、地獄でもごちそうです。
鬼たちは、舌なめずりをしながら言いました。
「ヒツジの舌の料理か。それはうまそうだな。よし、待ってやってもいいが、おれたちにも食べさせてくれないか?」
それを聞いたアイダンは、しめたとばかりにこう言いました。
「もちろん、ごちそういたしますよ。ただ、あなた方のような偉いお方と、わたしの様なただの人間が一緒に食事をするなんて、もったいないことです。・・・そうだ、あなた方は外へ出て、あの小窓から舌だけを出してくださいよ。わたしがこっち側から料理を食べさせてあげましょう」
そこで鬼たちはアイダンの言うように、小窓から舌を突き出しました。
するとアイダンは大きなハサミを持ってきて、二人の鬼の舌を、チョキン、チョキンと切ってしまったのです。
「うぎゃーーーー!」
「あいたたたっー!」
舌を切られた鬼たちは、大声で泣きわめきながら、地獄へと帰って行きました。
さて、鬼たちがひどい目にあって帰ってきたのを見て、閻魔大王は自分でアイダンを捕まえることにしました。
千里の馬にまたがって地獄から地上のアイダンの家までやって来た閻魔大王は、恐ろしい声でこう言いました。
「大悪党のアイダンめ! 人殺しをした上に、よくもわしの家来どもをひどい目にあわせてくれたな! さあ、わしと一緒に閻魔庁へ来るのだ!」
するとアイダンは、奥から一頭のヒツジを連れて出てきました。
「何だ? そのヒツジを、一体どういうつもりなのだ?」
閻魔大王に聞かれて、アイダンは自慢げに言いました。
「はい。閻魔さまは千里の馬に乗っておいでなので、わたしはこの万里のヒツジに乗ってお供しようと思いまして」
「なに? 万里のヒツジだと?」
「そうです。閻魔さまの千里の馬よりも十倍速く走れる、万里のヒツジです」
それを聞いた閻魔大王は、アイダンのヒツジが欲しくなって、自分の馬と取り替えてくれないかと言いました。
「まあ、閻魔さまのお願いとあれば、取り替えても構いませんよ。でもこの万里のヒツジは、主人のわたしの言う事しか聞きません。・・・でもまあ、ヒツジは頭が悪いので、閻魔さまがわたしの服を着れば、ヒツジも勘違いして言う事を聞くかもしれませんが」
「そうか、それなら服を取り替えてやるから、お前の着物をよこせ」
こうして二人は着物を取り替えて、アイダンは閻魔大王の服を着て千里の馬に、閻魔大王はアイダンの服を着て万里のヒツジにまたがりました。
そしてアイダンは千里の馬で飛ぶように閻魔庁へ向かいますが、ところが、閻魔大王の乗る万里のヒツジは、当然ながらちっとも速く走りません。
閻魔大王の服を着て千里の馬に乗ったアイダンは、閻魔庁までやって来ると、出迎えに来た鬼たちにこう言いました。
「そのうち、極悪人のアイダンがヒツジに乗ってやって来るだろう。もし来たら捕まえてこらしめてやれ!」
やがて、ヒツジに乗って本物の閻魔大王が閻魔庁にやって来ましたが、閻魔大王はアイダンの服を着ているので、鬼たちには本物の閻魔大王とわかりません。
「閻魔さまの言うように、アイダンがヒツジに乗ってやって来たぞ! それ、こらしめてしまえ!」
こうして閻魔大王は自分の家来に半殺しの目にあわされて、二度と閻魔庁には帰ってきませんでした。
そしてアイダンは、閻魔大王として閻魔で幸せに暮らしたと言うことです。
おしまい
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