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第135話

土まんじゅう

土まんじゅう
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 むかしむかし、あるお金持ちの農民が、自分の土地をながめていました。
 自分の畑にはどの作物も立派に育っており、牛やブタなどの家畜もいっぱいいます。
 それを見て、農民は満足そうにうなずきました。
 すると農民の心の中へ、誰かが声をかけてきました。
「お前は今まで、人に親切にしたことがあるか? 神の教えを守って、欲張らずにほどほどに暮らしていたか?」
 農民は、びっくりしました。
 今までお金を増やす事ばかりしてきて、人へ親切にした事は一度もなかったのです。
(わしは金持ちになったが、その代わり、心が貧しくなってしまったようだ)
 お金持ちの農民は、自分の人生に後悔しました。
 そこへ、隣の貧しい農民が麦を借りにきました。
 いつもなら、
「貧乏人が、あつかましい。とっとと帰れ!」
と、冷たく追い返すところですが、お金持ちの農民は気前よく麦とお金を与えて言ったのです。
「麦とお金は返さなくてもいい。きみにあげよう。だけど、お願いがあるんだ」
「お願いとは?」
「わしは今まで、神を信じずにお金だけを信じて生きてきた。そんなわしだ、もしかすると死んだ後、悪魔が来て地獄へ連れて行くかもしれん。だからわしが死んだら、わしの墓を三晩、見張ってくれないだろうか」
「わかりました。必ず約束は守ります」
 しばらくして、お金持ちの農民は死んでしまいました。

 貧しい農民は約束通り、お金持ちの墓を見張る事にしました。
 人が寝静まる頃になると、農民はお金持ちの墓の土まんじゅう(どまんじゅう→人を埋めて盛りあがった土)に腰掛けて、悪魔が来ないように見張りました。
 ふた晩は何事もありませんでしたが、三晩目に出かけて行くと男の人がいたのです。
「あなたは、何者ですか?」
 農民がたずねると、男の人は答えました。
「わたしは仕事のなくなった、元兵隊です。夢の中に老人が現れて『農民と一緒にわしの墓を見張ってほしい』と、言って来たのです」
 それを聞いた農民は、元兵隊の夢に現れた老人はお金持ちの農民だと思いました。
「わたしが、その農民です。では一緒に、墓を見張りましょう」
 そこで二人して、墓を見張ることにしたのです。

 しばらくすると鋭い風の音がして、突然、悪魔が現われました。
 そしてびっくりする二人に、恐ろしい声で言いました。
「そこをどけ! 今からその墓の男を、地獄へ連れて行くのだ」
 農民はびっくりして腰を抜かしましたが、しかし兵隊はひるみません。
 持っていたナイフを抜くと、悪魔に向かって言いました。
「おれは、墓を守る約束をした。ここを動かんぞ!」
「ぬぬぬっ。・・・では、お前たちに金貨をやろう。だから、そこをどいてくれるか?」
 悪魔の提案に、兵隊は答えました。
「いいだろう。では、おれのはいている靴いっぱいの金貨をもらおう。出来るか?」
「なんだ。それっぽっちでいいのか? よし、すぐに持ってくるから待ってろ」
 悪魔はそう言うと、金貨を取りに帰りました。
 その間に兵隊は靴の底をナイフで切り取って、茂みの上に置いたのです。
 しばらくして悪魔は帰ってくると、用意した金貨を靴の中に入れはじめました。
 しかし金貨は靴の底からどんどんこぼれていき、いつまでたってもいっぱいになりません。
「おかしいな。こんな小さな靴ぐらい、すぐにいっぱいになるはずだか?」
 そうしているうちに、ついに夜が明けてしまいました。
「しまった! 夜が明けてしまった!」
 朝日に気づいた悪魔は、悲鳴をあげながら逃げていきました。
 そしてそのすぐ後、朝日につつまれたお墓の中からお金持ちのたましいが、ゆっくりと空へ昇っていったのです。

 こうしてお金持ちの農民は無事に天国へ昇り、農民と兵隊は悪魔の残していったお金で大金持ちになりました。

おしまい

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