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第136話
男に化けた蝶
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むかしむかし、北京(ぺきん)に住んでいる葉(よう)という人が、易州(えきしゅう)に住んでいる友だちの王(わん)を訪ねました。
王が六十歳になった祝いをするから来て欲しい、葉に言ってきたからです。
ロバに乗って出かけた葉は、途中で馬に乗った男に出会いました。
男は、葉に尋ねました。
「あなたは、どちらへ行くのですか?」
「はい。友だちの王くんのお祝いに行くのです」
「おや? これは不思議なご縁ですね。実はわたしは王のいとこで、わたしも王の所へ行く途中なのです」
そこで二人は、一緒に行く事にしたのです。
さて、その途中で空が急に曇ってきました。
そしてとうとう、ピカリといなずまが光りました。
「大丈夫ですか?」
葉が後ろの男を振り返ったその時、何と男は馬のお腹のあたりまで頭を下げて、逆立ちの格好で馬に乗っていたのです。
「えっ?!」
びっくりした葉が、目をこすって再び後ろの男を見た時には、後ろの男は普通の格好で馬に乗っていました。
そして再びいなずまが光ったとき、後ろの男の口から、まっ赤な舌が、ビューッと二メートルものびたのです。
「なっ?!」
でも、葉がびっくりして目をパチパチさせると、後ろの男の姿は元に戻っていました。
(いっ、今のは何だったんだろう?)
葉は、怖くなって体が震えました。
でも、今さら逃げ出す事も出来ません。
やがて、王の家に着きました。
「やあ、よく来てくれたね」
王は、大喜びで二人を出迎えました。
集まったみんなは酒を飲み、食事をして、祝いの会は賑やかに盛り上がりました。
けれども葉は、一緒に来た男の事が気になって、そっと王に聞きました。
「王くん、あの人は、一体どこの誰だい?」
「ああ、彼はわたしのいとこの張(ちょう)という人だよ」
(そうか。やっぱりさっきのは見間違えなんだな)
葉は、男がもの凄い姿に見えたのは、きっと自分の目が変だったのだろうと思いました。
その晩、葉はその男と同じ部屋で寝る事になりました。
そうなると、葉はまた怖くなりました。
そこで葉は、下男に頼みました。
「すまないが、あの男とわたしの間に寝てもらえないだろうか」
「ああ、いいですとも」
何も知らない下男は、葉と男の間に横になると、すぐに眠ってしまいました。
でも葉は、どうしても眠れません。
そして葉が、眠れずにボンヤリしていると、突然、
バリバリバリ!
と、変な物音がしたのです。
葉が振り向くと、何とあの男が床の上に起き上がり、口からまっ赤な舌をベローンと出しながら、眠っている下男を押さえつけて、バリバリバリと食べていたのです。
葉は怖くて、悲鳴を上げることも出来ません。
(関帝(かんてい)さま、どうか、お助けください。お願いです)
葉は、魔除けの神さまの関帝を心から信じていたので、必死に祈りました。
すると、
ガーン!
と、部屋中に鐘の音が響き渡り、目の前に関帝がを現したのです。
関帝は手に持った大きななぎなたで、えいっと、男を斬りつけました。
そのとたん、男は何と車輪ぐらいの巨大蝶に姿を変えて、羽を広げました。
なぎなたで斬りつける関帝、槍のように鋭く長い口で襲いかかる蝶。
両者はしばらくの間、激しく戦っていましたが、再び『ガーン!』と鐘の音が鳴り響くと、両者の姿はふいに消えてしまいました。
そして葉は目がくらみ、その場に倒れて気を失いました。
次の朝、葉は王や王の家の人たちに介抱されて、息を吹き返しました。
「関帝さまは? あの男と下男は?」
あの男と下男の姿は、どこにも見あたらなくて、あたりに、人間の骨や血がいっぱい飛びちっていました。
葉の話を聞いてびっくりした王は、北京へ使いを出して、いとこの張はどうしているか、たずねさせました。
すると張さんはずっと北京で働いていて、王の家などへは出かけていかなかった、という事です。
おしまい
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