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第139話

ロバの王子

ロバの王子
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投稿者 眠れる森のくま

 むかしむかし、どうしても子どもがうまれない、王さまとおきさきがいました。
 おきさきは、その事をなげいて、
「わたしは、何もはえない畑みたいなものだわ」
と、口ぐせのように言っていました。
 けれどそんなおきさきにも、ついに子どもがうまれました。
 ところがそれは人間の子どもではなくて、ロバの子だったのです。
 おきさきはなげき悲しんで、
「ロバの子が生まれるくらいなら、いっそ子どもなんかいない方がましよ。この子は川ヘ投げ込んで、魚に食ベさせてください」
と、言ったのです。
 でも王さまは、おきさきに言いました。
「たとえ姿はロバであっても、この子は神さまがおさずけくださった子だ。
 わしの世つぎとして育て、わしが死んだあとは玉座(ぎょくざ)について、王のかんむりをいただくベきだ」
 こうしてロバの子は、この国の王子として育てられました。
 このロバの王子はとっても明るい子で、自分がロバであることをちっとも気にしていません。
 また音楽が大好きで、有名な楽師(がくし)のところへ行くと、
「わたしを、あなたの弟子にしてください。あなたみたいにリュートがうまくひけるように、わたしに教えてください」
と、言いました。
 しかし楽師は、
「ざんねんながら、それは難しい事でございましょう。
 あなたのお指は、とうていリュートをひくようには出来ていません。
 大きすぎますし、とても絃(げん)がもちますまい」
と、言いましたが、ロバの王子はあきらめませんでした。
「がんばります。毎日毎日がんばります。だからわたしに、リュートを教えてください」
「・・・わかりました。では、お教えしましょう」
 こうしてリュートを習う事になった王子は、それはそれはいっしょうけんめいに練習して、ついに楽師と同じぐらいうまくひけるようになったのです。

 ある日、ロバの王子は他の国を見に行きたいと思いました。
 そこでロバの王子はリュートをかつぐと、あてもない一人旅に出ました。
 やがてロバの王子は、年を取った王さまのおさめる国ヘ着きました。
 年を取った王さまには、若くて美しいお姫さまがいます。
 ロバの王子は正門をたたいて、大きな声で言いました。
「お客さまのお着きだぞ! 門を開けろ!」
 でも、門は開きません。
 そこで王子はリュートを取り出すと、二本の前足で見事にかきならしました。
 それを聞いてビックリした門番は、王さまのところヘ走って行きました。
「門の前にロバの子がおりまして、まるで名人のようにリュートをひいております」
「そうか、ならばその楽人をここヘ通せ」
 王さまに呼ばれて、ロバの王子は城の中に入りました。
 ロバの王子はみんなの前で、それは見事にリュートをひきならしました。
 王さまもお姫さまも家来たちも、みんなロバの王子に拍手をしました。
「いや、見事な腕前であった。それほど見事にリュートをひける者は、この国にはいない。さあ、わしらと一緒に食事をしよう」
「はい、ありがとうございます」
 こうしてロバの王子はみんなと食事をすることになったのですが、ロバの王子の食事はおけに入ったわら草で、それも部屋のすみの席だったのです。
 それを見ると、ロバの王子は機嫌を悪くして言いました。
「ぼくは、高貴の生まれの者だ。ぼくは、王さまのおそばにすわるんだ」
 ロバが言うと、王さまは笑いながら上機嫌に言いました。
「よしよし、ではお前の望み通りにしてやろう。ロバや、わしのそばヘおいで」
 ロバがとなりに座ると、王さまが聞きました。
「ロバや、わしの娘をどう思うかな?」
 ロバはお姫さまをジッと見つめると、すこし顔を赤くして答えました。
「これほど美しい方には、まだお目にかかったことがございません」
「そうか、では姫のそばヘすわるがよい」
「はい。それこそ、わたしにふさわしい事でございます」
 ロバはこう言ってお姫さまのそばにすわると、出されたごちそうをナイフとフォークで上手に食べました。
 そのふるまいがとても上品なので、王さまはロバの王子をとても気に入りました。

 ある日、ロバの王子は、
(だまって国を出てきたから、みんな心配しているだろうな。そろそろ、自分の国に帰らなくては)
と、考えました。
 そして悲しそうに頭を下げると、王さまに帰りたいと言ったのです。
 けれども王さまは、このロバがすっかり好きになっていたので、ロバを帰したくはありませんでした。
「ロバや、どうかいつまでも、わしのそばにいてくれないか? お前ののぞみの物は何でもあげよう」
 その言葉に、ロバの王子は思わず顔を上げました。
  ロバの王子は、お姫さまの事が好きだったのです。
「何でも、ですか?」
「そうだ。お前は、金貨がほしいのか?」
「いいえ」
「では、立派な道具やかざりがほしいのか?」
「いいえ」
「では、わしの国をほしいのか?」
「いいえ、とんでもない事」
「そうか。お前を満足させる物が、なにかあるといいのだがな。・・・そうだ、わしの娘を、嫁にもらいたくはないか?」
「はい、お姫さまをいただきとうぞんじます!」
 こうして、それはすばらしい結婚式があげられました。

 やがて夜になると、二人は寝室に入りました。
 ロバの王子は、ドアとかべの間に紙をはりました。
 誰かがドアを開けたら、すぐに分かるようにです。 
「あの、どうなされました?」
 お姫さまがたずねると、ロバの王子が言いました。
「実はわたしには、ひみつがあるのです。それをあなたにお見せしましょう」
 するとそこに現れたのは、いかにも美しくて上品な人間の若者でした。
「実はぼくは、夜にだけ人間になれるのです」
 それを見たお姫さまは、大喜びで王子にキスをしました。
 しかし次の朝になると、王子はまたロバの姿でした。

 その日のお昼、王さまがお姫さまに言いました。
「お前はちゃんとした人間を夫にもたないで、さぞ、悲しんでいるのだろうね」
 するとお姫さまは、首を横に振って言いました。
「いいえ、お父さま。わたし、あの方を世界一美しい人のように愛していますわ。そうして、一生つれそおうと思っていますのよ」
 王さまはこれを聞いて、不思議に思いました。
「もしかしてあの王子には、何かひみつがあるのだろうか?」
 そこで王さまは夜になると、こっそり若夫婦の寝室ヘしのびこみました。
 ベットに近づいてみると、月の光をあびて、いかにも立派な若者が眠っているではありませんか。
(そうか、そういう事か)

 朝になると、王子はドアとかべの間にはった紙を見ました。
 すると紙が破れています。
「しまった。お姫さま以外の誰かにひみつを知られた!」
 王子は、しょんぼりして言いました。
「悲しいけれど、もうこの国にはいられない」
 王子が逃げ出そうと部屋を出ると、部屋の外に王さまが立っていました。
「息子や、そんなに急いで、どこヘ行くのだ?」
「王さま、わたしは昼間はロバで、夜は人間の変な生き物です」
「それがどうしたと言うのだ? お前はわしの大切な息子だ。わしはこれからお前に国の半分をやろう。そしてわしが死んだら、全部を受け継ぐのだ」
 そこで年を取った王さまは、王子に国の半分をやりました。
 それから一年すると、年を取った王さまがなくなったので、この国は全部王子がおさめることになりました。
 やがて自分の国の王さまもなくなって、ロバの王子は二つの国を治める王さまになったということです。

おしまい

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