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第140話
ジャックとこん棒
ジプシー童話
むかしむかし、ある小さな小屋に、お母さんと一人息子のジャックが住んでいました。
二人の家はひどく貧乏だったので、税金を納める事が出来ません。
そこでお母さんは、唯一の財産である三頭の牛を指差して言いました。
「ジャックや、明日は領主が税金を取り立てに来るから、税金を納める為に、市で三頭の牛を売ってきておくれ」
そこで息子のジャックは、三頭の牛を連れて出かけました。
しばらく行くと、ジャックは一人の男に出会いました。
男は牛を見ると、ジャックに尋ねました。
「お前さん、牛を連れて、どこへ行くのだね?」
「ああ、この牛を、市に売りにいくところさ」
「そうかい。それなら、おれに売ってはくれまいか?」
「いいけど、代金はちゃんとくれるの?」
「いや、代金はないが、お前さんの言う事は何でもきく、こん棒とオルゴールと、この小さなミツバチをあげよう」
男はそういって、それぞれの使い方を教えました。
こうしてジャックは男に牛をゆずり、牛の代金として三つの物を持って家に帰りました。
「ただいま」
「おかえり。それで、牛の代金として、いくらもらってきたんだい?」
お母さんがたずねると、ジャックは三つの物をお母さんに見せました。
「お金じゃないけど、この三つの物をもらったよ」
それを聞いたお母さんは、びっくりです。
「お前は、何という馬鹿な事をしたの!」
お母さんは、息子をひどくしかりました。
そこでジャックは、代金の代わりにもらったオルゴールをならしました。
すると不思議な事に、お母さんは音楽にあわせて踊り出したのです。
「ジャック、やめておくれ、その音楽だけはやめておくれ、もう、お前をしからないから」
さて次の日、領主が税金を取りたてに来ました。
税金を払う事が出来ないお母さんは、困ってオロオロしています。
それを見たジャックは、こん棒に命じました。
「打て、打て、こん棒、領主を打て!」
すると、こん棒は領主をめちゃめちゃに打ちのめし、家からたたき出してしまったのです。
それからしばらくしたある日、ジャックがお母さんにいいました。
「お母さん、ぼくはこれから幸運を探しに行ってきます」
ジャックは、こん棒とミツバチを持って家を出ました。
オルゴールは、お母さんのところへおいていきました。
やがてジャックは、大きな城に着きました。
ですがその城は、半分しか出来ていません。
なぜなら、城をたてると、その夜のうちに誰かに壊されてしまうからです。
そこで王さまは、
《城を壊す者を見つけた者には、ごほうびとして姫をあたえる》
と、おふれを出しました。
それを知ったジャックは、城を壊す者を見つけて、姫と結婚しようと考えました。
そして、たくさんの石をそばに集めると、へいの上に身をふせて、城の様子をじーっと見守りました。
真夜中になって時計が十二時の鐘を鳴らすと、二人の大男が別々の方からやってきて、城の両側を壊し始めました。
それを見たジャックは、そばにあった石を一人の大男に投げつけました。
ゴツン!
「あいた! お前、何をするのだ!」
ジャックが投げたとは知らない大男が、もう一人の大男に文句を言いました。
「いいや、おれは何もしないぞ」
もう一人の大男が答えました。
ジャックはまた石を拾うと、もう一人の大男に投げつけました。
ゴツン!
石は男の背中に当たりました。
「あいた! こら、おれをなぐるのはやめろ」
石を投げられた大男は、もう一人の大男に言いました。
「いいや、おれは何もしていないぞ。お前は、なぜそんな事をいうのだ?」
「お前がなぐるからだ!」
「おれは知らないぞ!」
やがて、二人は大げんかを始めました。
そして二人は殴り合ううちに、二人とも死んでしまいました。
ジャックは死んだ二人に近づくと、二人の大男の首をはねて、そのひとつを王さまに見せるために持ち帰りました。
次の朝早く、ジャックは急いで城に行くと、誰が城を壊したのかを王さまに告げて、
「約束通り、姫を下さい」
と、王さまに言いました。
でも王さまは、こんな貧乏な男に姫をやるのが嫌だったので、
「ジャックよ、姫をお前にやる前に、お前にしてもらわなければならない事が三つある。その一つは、森に住む年取った魔女を捕まえる事だ」
と、言いました。
次の朝、ジャックは早くに起きると、穴を開けるきりを持って森に行きました。
そしてジャックはきりで木に大きな穴を開けて、そのそばで魔女が来るのを待ちました。
まもなく、魔女がやってきました。
魔女は、木の穴を見てびっくり。
「だれだい? こんな穴を開けたのは」
するとジャックが、魔女の前に飛び出して言いました。
「それは、わたしがあなたの為につくった、美しい小さな家の扉です。あなたはあの小さな家で、気持ちよく暮らすことが出来ます。あそこでは雪にも、しもにもあわずにすごせます」
「本当かい?」
魔女はそれを聞いて、木の穴をじっと見つめました。
そのすきにジャックは魔女の髪の毛を木の穴に通して、木のまわりにしばりつけました。
こうしてジャックは魔女を捕まえて、お城に運ぶと王さまに引き渡しました。
「さて、ジャックよ、次はイノシシを捕らえて、城に運んできてもらいたいのだ」
「そんな事は、おやすいご用です。明日、やってごらんにいれましょう」
次の朝早く、ジャックは食べ物を持ってお城を出ました。
ジャックは食べ物を木の下におき、自分は木の上に登って姿を隠しました。
手には、大きなロープを持っています。
やがてイノシシが、おいしそうなにおいをかぎつけて、木のところにやってきました。
それを見たジャックは、持っていたロープをイノシシの突き出た鼻に引っ掛けて、力いっぱい引きしぼりました。
「よし、捕まえたぞ!」
こうしてジャックは、見事にイノシシを捕まえてお城に持ち帰りました。
それを知った王さまは、ジャックに言いました。
「お前にやってもらいたい事がもう一つある。それは、お前にライオンの穴へ降りて行ってもらいたいのだ。そしてもし、お前がライオンに食べられなかったら、約束通りお前に姫をあげよう」
そう言うと王さまは家来に命じて、ジャックをライオンの穴に投げ込みました。
しかし穴に投げ込まれたジャックは、あわてる事なく、持っていたこん棒を取り出して、
「打て、打て、こん棒、ライオンを打て!」
と、命じました。
すると、こん棒はライオンたちを打ちのめしたのです。
それを見ていた王さまは、びっくりです。
「なんと、ライオンを倒してしまったか。・・・しかし、姫をあんな貧乏人にやるわけにはいかん」
王さまは家来に命じて、ジャックを穴から引き上げると、殺すように命じました。
するとジャックは、ミツバチに命じました。
「刺せ、刺せ、ミツバチ、王さまたちを刺せ!」
するとミツバチは、襲ってきた家来や王さまをメチャメチャに刺したのです。
ミツバチに刺されて全身を真っ赤にはらした王さまは、涙を流して頼みました。
「どうか助けてくれ、約束通り、姫をやるから!」
こうしてジャックは姫と結婚して、幸せに暮らしたのでした。
おしまい
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