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第141話

不思議な火打ち石

不思議な火打ち石
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投稿者 「あーる」  【眠れる朗読】

 むかし、長旅でお金がなくなった旅人が、町はずれの大きな木の下でしょんぼりと腰をおろしていました。
 朝から何も食べていないので、お腹が空いて目が回りそうです。
 ふと足元を見ると、古ぼけた火打ち箱に落ちていました。
 旅人は中から火打石を取り出すと、力チ力チと鳴らしてみました。
 すると不思議な事に、どこからともなく大きな犬が飛んで来て、
「ほしい物は、何ですか?」
と、聞いてきたのです。
「お金がほしい!」
 旅人が答えると犬はどこかへ飛んで行って、お金のいっぱい入った財布(さいふ)をくわえてきました。
「ご用の時は、また呼んでくださいね」
 犬はそう言うと、煙のように消えてしまいました。

 旅人はそのお金でお腹いっぱいごちそうを食べて、夜は久しぶりに宿屋に泊まりました。
「ああ、お腹はまんぷくだし、ベットはふかふかだし、今日はぐっすり眠れそうだ。・・・おや? お城か」
 部屋の窓から大きなお城をながめていると、お城の窓から美しいお姫さまが姿を現しました。
「きれいな人だな。あんな人と、お友だちになれたらなあ。・・・そうだ」
 旅人は昼間の火打ち石を、力チ力チ鳴らしてみました。
 すると犬が、窓から飛び込んできました。
「ほしい物は、何ですか?」
「実は、あのお城のお姫さまと、お友だちになりたいんだ」
 旅人が言うと犬はすぐに窓から飛び出して行き、お姫さまを背中に乗せてもどってきました。
「こんばんわ、旅人さん。何か、旅のお話しを聞かせてくださる?」
「はっ、はい!」
 お姫さまは旅人の楽しい旅のお話しに、夜のふけるのも忘れるほどでした。
 夜が明けると犬はお姫さまを背中に乗せて、お城に送り届けました。
 旅人は、あくる夜も、そのあくる夜も、犬のおかげでお姫さまとお話しする事が出来ました。

 そんなある夜、王さまの家来が、犬がお姫さまを連れ出すところを見つけてしまったのです。
 家来はすぐにあとを追いかけましたが、途中で見失ってしまいました。
 そこで家来は次の日、底に小さな穴を開けた袋にそば粉をつめて、それをお姫さまの着物にぬいつけたのです。
 夜になるとお姫さまは、また犬の背中に乗って旅人のところへ行きました。

 あくる朝、家来たちはそば粉をたどって宿屋に来ると、旅人を捕まえました。
 お城に引き立てられた旅人は、王さまに向かって言いました。
「わたしは、お姫さまが好きです。どうかお姫さまを、わたしのお嫁さんにください」
 すると王さまは、かんかんに怒って、
「無礼者! お前なんぞに、大切な姫がやれるか! この男を、死刑にしろ!」
と、家来たちに命令しました。
 家来たちが旅人に向かって剣を振り上げると、旅人は素早く火打ち箱から火打石を取り出して力チ力チと鳴らしました。
 すると、
「ウォーーン! ワンワン!」
と、あの犬が現れて、たちまち家来たちをやっつけたのです。
 そして犬は、王さまに向かって言いました。
「王さま、この旅人は素晴らしい若者です。この旅人をこの国の王にしたら、国はいつまでも栄えるでしょう」
 そう言うと犬は、どこかへ消えてしまいました。
「不思議な犬だ。きっと、神さまのお使いにちがいない」
 そう思った王さまは旅人とお姫さまの結婚を許して、旅人に王さまの位をゆずりました。

 その後、王さまになった旅人は立派に国を治めて、この国はいつまでも栄えたということです。

おしまい

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