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第143話
あかだらけの男
ロシアの昔話 → ロシアの情報
むかしむかし、戦争が終わって仕事がなくなった貧乏な兵隊が、こんな事を言いました。
「さて、これからどうするか、いっそ、悪魔にでも使ってもらうか」
すると、本当に悪魔がやって来て言いました。
「それなら、これから十五年の間、ひげをそらず、髪を切らず、体を洗わず、服も着がえずにいれば、お前に好きな物を好きなだけやるぞ」
「そうか、それなら、お前の言う通りにしよう。だけど、おれの望む物は何でもくれよ」
「わかった」
「じゃあ、まず、おれを大きな町へ連れて行って、金をたっぷりくれないか」
「よし」
悪魔は、すぐにその通りにしました。
兵隊は町に部屋を借りると、ひげもそらず、髪も切らす、体も洗わず、服も着替えずに暮らしました。
すると、お金がどんどん貯まっていきました。
「しかし、金と言う物は、必要以上にあっても邪魔なだけだな。よし、この金で貧乏な人を助けるとしよう」
兵隊が貧しい人に気前よくお金をめぐむのが評判になり、それを知った王さまは大金持ちになった兵隊を城に呼びました。
「すまないが、軍隊に支払う給料を代わりに払ってくれないか? 軍隊の大将にしてやるから」
「いいえ、大将などになりたくはありません。その代わり、お姫さまを一人、わたしの妻にください」
「いいだろう。では、娘たちにお前の肖像画を見せてみよう」
王さまは、まず一番上の娘に、兵隊の肖像画を見せました。
すると一番上の娘は、汚い姿の兵隊に身震いして、
「こんな男の妻になるくらいなら、悪魔へ行った方がましだわ」
そして、二番目の娘は、
「こんな男の妻になるくらいなら、悪魔と暮らした方がましだわ」
二人の娘に断られた王さまは、三人目の末娘に尋ねました。
「どうだろう。この男の嫁になってくれないか?」
すると末娘は、頭を縦に振りました。
「わかりましたわ。ここは運を天にお任せして、この男のお嫁にまいります」
「そうか。助かったよ」
喜んだ王さまは、すぐに二人の婚礼の準備を始めました。
兵隊は悪魔に頼んで、十二台の馬車いっぱいの金貨を持ってこさせました。
そしてそれを王さまに届けたので、王さまは大変なお金持ちになりました。
さて、それから月日が流れて、悪魔と約束した十五年の期限が過ぎました。
「さあ、悪魔よ。おれを姫にふさわしい立派な若者にしておくれ」
すると悪魔は、兵隊を細かく切り刻んで、大鍋で煮て、骨や筋にわけました。
それに命の水をふきかけると、兵隊はとても美しい若者の姿になりました。
そして悪魔は、その事を、おじいさんの悪魔に話しました。
聞いたおじいさんの悪魔は、かんかんに怒りました。
「何だと! あの兵隊を地獄に連れてこず、幸せにしてやるとはなんたる事だ。これがおれの孫とは、なさけない」
おじいさんの悪魔は、孫の悪魔を煮立った油の中に投げ込もうとしました。
すると孫の悪魔は、あわてて言いました。
「おじいさん。実は兵隊の代わりに、二人の娘を連れてくることになっているのです。兵隊が、その娘たちと結婚したいと言った時、二人とも『あんな男より悪魔の方がいい』と、言ったのです」
「ほほう、それは素晴らしい。娘の魂は、男の魂の十倍の価値があるかな。さすがは、わしの孫だ」
おじいさんの悪魔は、始めて孫の悪魔を褒めてやりました。
おしまい
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