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第148話

裁判にかけられた石

裁判にかけられた石
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 むかしむかし、町の裁判官がお供たちを連れて散歩していると、道ばたで一人の少年が泣いていました。
 気になった裁判官は、その少年に話しかけました。
「そこの少年、さっきから何を泣いているのだ?」
 すると少年は、涙を手で拭きながら答えました。
「わたしは、油屋で働いている油売りです。
 早くに全ての油を売り終えたので、そこの石の上で昼寝をしていました。
 ところが目が覚めてみると、今日の売り上げ金が無くなっていたのです。
 売り上げ金を親方に渡さないと、わたしは何をされるか分かりません。
 それで、それで・・・」
 そう言って油売りの少年は、油の付いた手で再び顔をこすりながら泣き出しました。
 裁判官は、自分の手ぬぐいを少年に差し出して言いました。
「なるほど。
 確かにそれは、泣きたくもなる話だ。
 ・・・よし、ここで出会ったのも何かの縁。
 一つ、わたしが犯人を調べてやろう。
 だから泣きやんで、油だらけの手と顔を拭きなさい」
 実はこの裁判官、どんな事件でもたちまち解決してしまう、町でも評判の名裁判官だったのです。
 裁判官は、少年に尋ねました。
「お前は、この石の上で昼寝をしていたのだね」
「はい、この石でございます」
「では、お前の金を盗んだのは、この石に間違いない。よし、さっそくこの石を裁判にかけよう」
 裁判官は、お供の者たちに重い石を裁判所まで運ばせました。
 そして町中に、泥棒石の裁判を始めるとふれ回ったのです。

 裁判官は、逃げられないようになわでしばれた石に向かって言いました。
「そこの石よ、お前は油売りの金を盗んだであろう。正直に答えなさい」
「・・・・・・」
 石が、返事をするわけがありません。
「どうした? 正直に白状しないと、ムチで打つぞ」
「・・・・・・」
 もちろん、石は何も言いません。
「仕方ない。この石が何かを言うまで、ムチで打つのだ」
 裁判官の命令に、役人は石をムチで打ち始めました。
「石よ、痛いであろう。止めて欲しければ、早く白状するのだ」
 その様子を見ていた町の人たちは、あきれかえってくすくすくと笑いました。
 すると裁判官は、笑った町の人たちに言いました。
「裁判中に笑うとは、けしからん! いま笑った者は、罰としてろうやに入れる!」
 それを聞いて、町の人たちはびっくりです。
「何とぞ、お許し下さい! もう二度と、笑ったりしません!」
「それでは今回だけは許すが、みんな罰金を納めるのだ」
 裁判官は、水がなみなみと入った大きなかめを用意させました。
「この中に、罰金を入れるがよい」
 町の人たちは、そのかめに一人ずつお金を入れ始めました。
 そしてある男が、かめにお金を入れた時の事です。
 かめの水面に、ギラギラと油が浮き上がったのです。
「この男が泥棒だ! すぐに捕まえろ!」
 男はあわてて逃げようとしましたが、すぐに役人に捕まってしまいました。
 役人が捕まえた男を調べると、ふところから油の付いたお金がたくさん出てきました。
 数えてみると油の付いたお金は、少年が盗まれたお金とちょうど同じ金額です。
 裁判官は、こう考えたのです。
 油売りのお金なら、きっとお金に油が付いているだろうと。

 こうして無事にお金が戻ってきた油売りの少年は、裁判官に何度も何度も頭を下げて帰って行きました。

おしまい

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