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第163話

火の鳥

火の鳥
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 むかしむかし、ある王さまには、三人の王子がいました。
 上の王子は、ドミートリーと言う名前です。
 中の王子は、ワシーリーと言う名前です。
 下の王子は、イワンと言う名前です。

 この王さまのお城の庭には金の実がなるリンゴの木がありますが、このリンゴの実を毎晩の様に盗みに来る泥棒がいるのです。
「王子たちよ。金のリンゴはあと三個しか残っていない。必ずリンゴ泥棒を捕まえてくれ」
「はい。わかりました」
 王さまの命令で、王子たちは順番にリンゴの木を見張る事にしました。
 けれども上の二人の王子はなまけ者だったので真夜中になるとグーグーと寝てしまい、二人とも金のリンゴを盗まれてしまいました。
 最後は、末っ子のイワン王子の番です。
 イワン王子はがんばって、真夜中になっても眠りませんでした。
 イワン王子が見張りを続けていると、まだ朝でもないのに急に辺りが明るくなりました。
(わあ、なんだろう?)
 イワン王子がまぶしさに目を細めると、なんと金色の羽を広げた一羽の火の鳥が飛んで来て、最後に残った金のリンゴの実をおいしそうに食べ始めたのです。
「あれが、リンゴ泥棒だな!」
 イワン王子は急いで火の鳥に飛びつきましたが、火の鳥の羽を一枚つかんだだけで逃げられてしまいました。

 翌朝、イワン王子から事情を聞いた王さまは、その火の鳥の美しい羽を見て火の鳥が欲しくなりました。
 そこで三人の王子たちに、こう言いました。
「火の鳥を捕まえてきた王子には、この国の半分を与えよう。そしてわしが死んだ後は、この国の跡継ぎにしてやろう」
 三人の王子たちは、さっそく馬に乗って火の鳥を捕まえる旅に出ました。
 しかし上の二人の王子は途中でめんどうになり、お城に帰ってしまいました。
 そこでイワン王子だけが旅を続けていると、突然、森の中から灰色のオオカミが飛び出して来て言いました。
「腹ぺこなんだ。悪いがお前の馬を、食べさせてもらうぞ」
 オオカミはそう言って、王子の馬をペロリと平らげてしまったのです。
「何て事を。火の鳥を探す旅の途中なので、馬がいなくては困るんだ」
 王子が文句を言うと、オオカミは王子を背中に乗せて言いました。
「それはすまなかった。それなら代わりにわたしが、火の鳥のいる場所へ連れて行ってやろう」

 しばらくして大きなお城の前につくと、オオカミが王子に言いました。
「この城の庭に金のカゴに、火の鳥がいる。火の鳥が欲しいのなら、火の鳥だけを取り出すんだ。金のカゴには鈴が付いているから、決してさわってはいけないよ」
 ところがイワン王子は、つい、きれいな金のカゴをさわってしまったのです。
♪リンリンリンリン!
 たちまちカゴについていた鈴が鳴り出したので、王子はお城の家来たちに捕まってしまいました。

 王さまの前へ引き出された王子が一生懸命に許しを請うと、王さまが言いました。
「よし。隣のアフロン王の国から、金のたてがみの馬を盗んできたら許してやろう」

 王子がお城の外へ出ると、王子を待っていた灰色のオオカミがあきれた顔で言いました。
「だから言ったのに。仕方がない、もう一度だけ助けてやろう」
 オオカミは王子を背中に乗せると、アフロン王の馬屋に連れて行ってくれました。
「この馬屋の中に金のたてがみの馬がいるが、金のたてがみの馬以外は決してさわらないように。他の物には鈴が付いているからね」
 オオカミは注意しましたが、王子はそばに置いてあった金のくつわも欲しくなって、また手をふれてしまいました。
♪リンリンリンリン!
 たちまちくつわについていた鈴が鳴り出して、王子はアフロン王に捕まってしまいました。
 王子が一生懸命に許しを請うと、アフロン王が言いました。
「それでは果ての国に行って、世界一美しいエレーナ姫をさらってこい。姫を連れてきたら許してやろう」

 外で王子を待っていた灰色のオオカミは、またあきれた顔で言いました。
「やれやれ、本当に困った王子さまだな。仕方ないから、今度はわたしが行ってやろう」
 オオカミは王子にそう言うと風の様に走って、すぐにエレーナ姫を連れてきました。
 ところが王子と姫は一目見つめ合ったとたんに、お互いを好きになってしまったのです。
「わたし、あなたのお嫁さんになりたいわ」
 エレーナ姫の言葉に王子は大喜びですが、けれど姫を連れて行かないと王子は死刑になってしまいます。
「どうしたらいいのだろう?」
 王子が困った顔でオオカミを見つめると、オオカミはため息をつきながら言いました。
「やれやれ、馬を食べたばかりに、こうも次から次へと働かされるとは思わなかった。けれどもここまで来たからには、最後まで助けてやるよ」
 オオカミは魔法を使ってエレーナ姫に化けるとアフロン王から金のたてがみの馬を手に入れて、それと交換に火の鳥を手に入れました。
 そして王子はエレーナ姫と一緒に国へ帰り、王さまから国をもらってエレーナ姫と結婚したのです。

おしまい

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