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第165話
愚か者のジョン
アメリカの昔話 → アメリカの情報
むかしむかし、あるところに、ジョンという少し頭の弱い男がいました。
ある日の事、お母さんは町へ出かけるので、留守番をするジョンに言いました。
「いいかいジョン。
泥棒が入らない様に、しっかり戸の番をしているのですよ。
戸は家を守る、大切な物だからね」
「うん、しっかり番をしているよ」
ジョンは表に立って、じっと戸の番をしていました。
ところが、いつまでたってもお母さんが帰ってきません。
「遅いな。どうしたのかな? 早く帰って来ないかな」
寂しくなったジョンは、お母さんを迎えに行く事にしました。
でも、このまま行ってしまえば、戸の番をする事が出来ません。
「仕方がない、戸を持っていこう。何と言っても、戸は家を守る大切な物だからね」
ジョンは表の戸をはずすと、肩にかついで歩き出しました。
しばらくすると向こうから、七人の大男たちがやってきました。
大男たちは怖い顔をして、手に重そうな袋を持っています。
(あっ、もしかして、泥棒かもしれないぞ。大切な戸を盗まれては大変だ)
ジョンは、そばにあった大きな木に、戸をかついだまま登っていきました。
ジョンがやっとの事で木の上に隠れた時、大男たちが木の下にやってきました。
(あっちへいけ。はやくあっちへいけ)
ジョンはそう願いましたが、大男たちはジョンのいる木の下に腰をおろすと、お金を分け始めたのです。
「さあ、ここで金を分けよう。お前に一枚、お前にも一枚、お前にも一枚・・・」
親分らしい男が、袋の中のお金を順番に渡していきます。
(やっぱり泥棒だ。ああ、戸を盗まれなくてよかった。・・・でも、あのお金、いいな)
ジョンは自分もお金が欲しくなって、思わず言ってしまいました。
「ねえ、ぼくにも一枚ちょうだいよ」
「誰だ!!」
びっくりした泥棒の親分は、怖い顔であたりを見ましたが誰もいません。
「・・・なんだ、気のせいか」
そう言って泥棒の親分は、また、お金を分けはじめました。
「お前に一枚、お前にも一枚、お前にも一枚・・・」
するとジョンが、木の上でまた言いました。
「ねえ、ぼくにも一枚ちょうだいよ」
「誰だ、出てこい! 木の上にいるのだな。ぶっころしてやる!」
親分は、木の上を見てどなりました。
それを聞いたジョンは、怖くなって体をガタガタと震わせました。
そしてその振動で、かついでいた戸が、ばさりと泥棒たちの上に落ちたのです。
「ひえっ!」
泥棒たちはびっくりして、そのまま転がるようにして逃げていきました。
ジョンは木の上から降りてくると、戸の上にお金の袋をのせて家に持って帰りました。
家に帰ると、とっくに戻っていたお母さんがジョンを見て言いました。
「何ですか! 家を守る戸をはずして持っていくなんて、お前は本当に愚か者だね!」
「でもおいら、ちゃんと戸の番をしていたよ。戸は家を守る、大切な物だと言っていただろう?」
「だからって、家から戸をはずしたら、何にもならないじゃないの! ああ、お前は本当に愚か者だね! ・・・おや? それは?」
お母さんがふと見ると、ジョンがかついでいる戸の上に金貨のつまった袋が七つもあります。
ジョンから話を聞いたお母さんは、にっこり笑って言いました。
「まあ、ジョン。お前は、なんて利口なんでしょうね」
おしまい
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