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第171話
巡礼とロバ
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むかしむかし、ある村に偉いお坊さんのお墓があると聞いて、一人の巡礼(じゅんれい→仏さまを信じて、お寺からお寺へとおまいりしてまわる人)が一頭のロバを連れてやって来ました。
巡礼が偉いお坊さんのお墓だと言われている塔にお祈りを捧げていると、連れてきたロバが突然死んでしまったのです。
「どうしよう。これからぼくはひとりぼっちだ」
巡礼が悲しんでいると、この村の村長が気の毒に思って、巡礼に若いロバを一頭めぐんでくれました。
「ありがとうございます」
巡礼は新しいロバと一緒に、旅を続けました。
けれどこの新しいロバも、旅の途中で死んでしまったのです。
「どうしよう。これでぼくは、また一人ぼっちだ」
巡礼は丘の上に二本の柱を建ててロバのお墓にすると、死んだロバのために泣きながらお祈りを捧げました。
すると近くを通りかかった人々が、泣きながらお祈りを捧げている巡礼を見て言いました。
「あれほど悲しそうにお祈りを捧げるなんて、ここはきっと偉いお坊さまのお墓に違いない。わたしたちも、お参りをしていこう」
それからというもの、この丘にはたくさんの人々がお参りに来るようになりました。
そしてお参りに来る人たちは、
「偉いお坊さまが、こんな粗末なお墓では可愛そうだ」
と、みんなでお金を出し合って立派な塔を建てて、巡礼にたくさんのお布施をしました。
ある日、巡礼にロバをめぐんでやった村長が、偉いお坊さんのお墓があると聞いてお参りにやって来ました。
そしてそのお墓に、あの時の巡礼がいる事を知ってとても驚きました。
「あなたは、いつかの巡礼ではないですか。
ここのお墓を守っているのが、あなただとは知りませんでした。
それでここは、どんな尊いお方のお墓ですか?」
「えっ? ・・・それは」
巡礼は困りましたが、正直に答えました。
「実は、村長さんのくださったロバが死んでしまったので、悲しくて、ここに埋めただけなのです」
それを聞いた村長は大声で笑って、巡礼をなぐさめるように言いました。
「それではここは、あなたが巡礼にやって来た、わたしの村にある塔と同じですね。
みんながありがたがってお参りに来るわたしの村の塔に埋められているのは、実はあなたにあげたロバの母親なのですよ。
ここと同じで、死んだロバを悲しむわたしを見て、みんなが勝手に偉いお坊さまの墓だと勘違いしているのですよ」
おしまい
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