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第172話

クモをだましたネズミ

クモをだましたネズミ
ケニアの昔話 → ケニアの情報

 むかしむかし、仕事を終えた動物たちに、神さまが言いました。
「お前たち、よく働いてくれたね。ごほうびに牛を一頭あげるから、みんなで分けて食べなさい」
「ありがとうございまーす!」
 動物たちは、大喜びです。
 でも、クモだけは大きな木を見ながら、モジモジとしています。
「クモくん、どうしたんだい?」
 他の動物が尋ねると、クモが言いました。
「うん。・・・実は、あの木に偉い小人が住んでいて、牛の足を一本欲しがっているんだ。・・・あげてもいいかな?」
「それじゃあ、足を一本持って行ってあげればいいよ」
「ありがとう」
 クモは牛の足を一本もらうと、木の後ろに隠して帰って来ました。
「クモくん、偉い小人は、喜んでくれたかい?」
 みんなが聞くと、クモはまたモジモジしながら答えました。
「もちろんさ! ・・・でもね、それを見ていた沼の神さまも、足が一本欲しいと言うんだよ」
「そうか。でも足はまだ三本あるから、もう一本持って行ってあげればいいよ」
「ありがとう」
 足をもう一本もらったクモは、足をまた木の後ろに隠して戻ってくると言いました。
「実はその、今度は木の神さまが、自分も足が欲しいと言うんだよ」
「それじゃあ、木の神さまにも分けてあげたらいいよ」
「ありがとう」
 こうしてクモは、『草の神さま』『土の神さま』『空の神さま』と、次々と他の神さまも欲しがっているとうそを言って、動物たちが食べる前に牛の肉を全部木の後ろに隠してしまったのです。

 牛の肉が全てなくなったので、動物たちはそれぞれの家へ帰って行きました。
「しめしめ、これで牛の肉をひとりじめ出来るぞ」
 大喜びするクモに、クモの行動を全てを見ていたネズミが、いかにも心配そうな顔をして言いました。
「クモくん、大変だよ!」
「どうしたんだい?」
「実はあの牛は悪い病気にかかっていて、さわっただけでも病気になって死んでしまうんだ」
「ひええー!」
「そして病気を治すには、七日間お風呂に入らないといけないそうだ!」
「それじゃあ、早くお風呂に入らないと!」
 クモは大慌てで、家へ帰りました。

「えへへへ。悪い病気だなんて、うそだよ」
 ネズミはペロリと舌を出すと、一人で牛の肉をお腹いっぱい食べたそうです。

おしまい

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