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第175話

エコーとナルキッソス

エコーとナルキッソス
ギリシア神話 → ギリシアの情報

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

 むかしむかし、ギリシアの森に、エコーというおしゃべりな妖精がいました。

 ある日の事、夫のゼウスが森の妖精たちと楽しく遊んでいると聞いた奥さんのヘラは、怒って森に入っていきました。
「大変だ、ゼウスを助けないと」
 エコーはヘラのところへ行くとあれこれとうるさく話しかけて、その間にゼウスと一緒にいた妖精たちをうまく逃がしてやったのです。
 その事に気づいたヘラは、たいへん怒りました。
「エコー、おだまり!
 これからはお前は、決して自分からしゃべってはいけません。
 人の言った言葉を繰り返す以外、しゃべる事を禁止します」
 おしゃべりが大好きなエコーはびっくりして、ヘラに一生懸命頼みました。
「ヘラ様、どうかそればかりは許して下さい。お願いです。もう、おせっかいな、おしゃべりはしませんから」
 でもヘラは聞き入れようとはせず、エコーはがっかりして森の奥へ姿を消しました。

 それから数年後、ナルキッソスという美しい青年が森へやってきました。
「まあ、何て素敵な人でしょう」
 エコーは思わず、木陰から飛び出しました。
「見事な金髪、青くすんだ瞳。あんな素敵な人、今までに見た事がないわ」
 エコーはたちまち、ナルキッソスに夢中になりました。
「一度でいいから、わたしに話しかけてくれないかしら? そうすれば、彼とおしゃべりが出来るのに」
 その日からエコーは、ナルキッソスのあとをついてまわりました。

 ある時、ナルキッソスは山で道に迷い、友だちとはぐれてしまいました。
 ナルキッソスは、大声で友だちを呼びました。
「おーい、どこへ行ったんだい?」
 するとエコーが、声真似をします。
「おーい、どこへ行ったんだい?」
 それを聞いたナルキッソスが、答えました。
「わたしは、ここだよ」
 するとエコーが声真似をしながら、ナルキッソスの前に飛んでいきました。
「わたしは、ここだよ」
 ナルキッソスは、声真似をするエコーに驚きました。
「誰だ、お前は?」
「誰だ、お前は?」
「なぜ、真似をする」
「なぜ、真似をする」
「真似をするな!」
「真似をするな!」
「だまれ!」
「だまれ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 エコーの声真似に腹を立てたナルキッソスは、エコーをにらみつけてどこかへ行ってしまいました。
 ナルキッソスに嫌われたエコーは、泣きながら森の奥深くに隠れました。
 そして悲しみのあまり体がどんどんやせていき、ついには声だけになってしまいました。

 エコーの悲しい結末を知った他の妖精たちは、ナルキッソスに仕返しを考えました。
「ナルキッソスだって、つらい目にあってみればいいのよ」
「そうだわ、そうだわ」
「復讐の女神さまに、お願いしましょう」
「でも、どんなお願いをするの?」
「自分に恋をして、他の誰も好きになれない様にするのよ」

 ある日、喉が渇いたナルキッソスは通りかかった池の水を飲もうとして、はっとしました。
「誰だろう、この美しい人は?」
 ナルキッソスは水に映っている自分の姿を、美しい妖精と思い込んだのです。
「何と素敵な妖精だ。妖精よ、池からあがっておくれ。ぼくの前に出てきておくれ」
 当然のこと、水に映った自分は何も返事をしません。
「外に出てきてもらえないのなら、せめて、ぼくがあなたをずっと見つめていよう」
 自分の姿に恋をしたナルキッソスは、その池から離れられなくなりました。
 そして食べる事も寝る事も忘れてしまったナルキッソスは、ひどくやせおとろえてしまいました。
 それを知ったエコーは、じっとしていられません。
 エコーはナルキッソスのそばにやって来て、ナルキッソスが小さなため息をつくと自分も同じようにため息をつきました。

 ある春の事、すっかりやせ衰えたナルキッソスは、美しい自分の姿が映っている池に手を伸ばしました。
「美しい妖精よ。今日こそは、ぼくのところに来ておくれ」
 そしてそのままバランスを崩して、ナルキッソスは池の中に落ちてしまったのです。
 体の弱っていたナルキッソスは、池の底に沈んで二度と浮かんではきませんでした。

 エコーはもちろん、復讐の女神にお願いをした妖精たちも、池の底に沈んだナルキッソスを探しました。
 でも、どんなに探してもナルキッソスは見つかりませんでした。
 その代わり、黄色いおしべの白い花が、池のほとりに咲いていました。
「きれいな花」
 その花の上品で、どこかさびしそうで、死んだナルキッソスにそっくりでした。
「この花は、ナルキッソスの生まれかわりだわ」

 その時から妖精たちは、その花をナルキッソス(水仙)と名づけて大切にしたそうです。

おしまい

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