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第181話

二頭を損して百頭を得する

二頭の牛で百頭の牛を手に入れる
ロシアの民話ロシアの情報

 むかしむかし、ある村に、仲の良いおじいさんとおばあさんが住んでいました。

  おじいさんとおばあさんは牛を二頭飼っていますが、けれど牛に引かせる車は持っていませんでした。
「車がないと不便ですねえ。おじいさん、牛を売って車を買って来てくださいな」
「ああ、わかった。そうしよう」
 おじいさんはさっそく、二頭の牛を売りに町へ出かけました。

 おじいさんは町へ行く途中で、二台の車を引いた若者に出会いました。
(ああ、これはちょうど良いところに)
 おじいさんは、さっそく若者に声をかけました。
「この二頭の牛と、その車を一台、取替えっこしないか?」
「本当ですか? いいですとも!」
 若者は、大喜びで取り替えてくれました。
 何しろ牛を二頭も売れば、そのお金で車が十台ぐらい買えるからです。
 そうとは知らないおじいさんも、車が手に入って大喜びです。
「無事に車が手に入ってよかった」
 おじいさんは車を引いて帰りましたが、その車は牛が引くための車なので重い事、重い事。
 おじいさんは、すぐに疲れてしまいました。
「これは困った。もう歩けない」
 その時、向こうから二頭のヤギを連れたお百姓がやって来ました。
 そこでおじいさんは、車とヤギ一頭と取替えっこして欲しいと言いました。
「本当ですか? いいですとも!」
 お百姓は、大喜びで取り替えてくれました。
 何しろ車を一台売れば、たくさんのヤギが買えるからです。
「よかった。これで重い車を引かなくてすむ」
 おじいさんがヤギを連れて歩いて行くと、袋売りの男に出会いました。
(きれいな袋だな。そういえば、ばあさんが袋を欲しがっていたな)
 そう考えたおじいさんは、ヤギと袋を取替えました。
 ヤギを一頭売れば袋はたくさん買えるのですが、もちろんおじいさんは、そんなことは知りません。

 歩き疲れたおじいさんは近道をして帰ろうと、途中の渡し船で川を渡りました。
 ところが、渡し賃のお金がありません。
「船頭さん。すまないが渡し賃の代りに、この袋でもいいかな?」
「ああ、その袋なら十分だよ」
 袋を売れば何回も渡し船に乗れるお金になるのですが、おじいさんはもちろん知りません。

「ああ、荷物が何もないと歩くのが楽だ」
 手ぶらになったおじいさんがのんきに歩いていると、ばくろうたちが道でたき火をしているのに出会いました。
 ばくろうとは、馬や牛を売り買いする人の事です。
「やあ、じいさん。町からの帰りかい?」
「ああ、実はねえ」
 おじいさんは、二頭の牛を車と交換し、その車をヤギと交換し、そのヤギを袋と交換し、その袋を渡し船代に渡した事を話しました。
 すると、ばくろうの親方があきれて言いました。
「なんてもったいない事を。じいさん、家に帰ったらばあさんに怒られるぜ」
「そうか? わしは今まで一度も、おばあさんに怒られた事はないぞ」
「いや、今度は怒られる」
「いいや、今度だって、大丈夫さ」
「よし、それなら」
 親方は、おじいさんにこんな約束をしました。
「もし、あんたがばあさんに怒られなかったら、おれの牛を百頭やろう」

 さて、親方と一緒に家へ帰ってきたおじいさんは、今までの出来事を全て正直に話しました。
 するとおばあさんは、怒るどころかにっこり笑って言ったのです。
「まあまあ、それはご苦労さまでした」
 この二人の仲の良さに、親方が感心して言いました。
「じいさん、おれの負けだ。約束通り、牛を百頭やろう」

 こうしておじいさんは二頭の牛を失ったものの、百頭の牛を手に入れる事が出来たのです。

おしまい

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