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第183話
カガミの人物
中国の昔話 → 中国について
むかしむかし、ある田舎の村に住む男が都に行って、生まれて始めてカガミという物を知りました。
「へえ、自分の顔が見えるのか。これは面白い。ひとつ買って帰ろう」
カガミを買った男は家に帰ると、カガミを戸棚の中にしまって、ひまさえあれば自分の顔をうつしてニヤニヤと笑っていました。
さて、この事に気がついたおかみさんは、男の行動を不思議に思いました。
「あの人は、戸棚の中に何を隠しているのだろう?」
そんなある日、おかみさんは男が出かけたすきに戸棚からそっとカガミを取り出しました。
「丸くて平たい物だけど、一体何かしら?」
そして、カガミをのぞき込んでみてびっくりです。
「まあ!」
何とカガミの中には、若い女の人がいるではありませんか。
もちろん、その若い女の人はカガミにうつったおかみさんの顔ですが、おかみさんはそんな事とは知りません。
「お母さん! お母さん!」
おかみさんは、あわてて夫の母親のところに走っていきました。
「お母さん、聞いて下さい。うちの人ったら、都から若い女を連れて来たんですよ。ほら、ここに隠れているから見てくださいな」
「うちの息子が? あの子が若い女を連れ込むなんて、そんなバカな」
「本当です! ここをのぞき込んで下さい!」
「わかった、わかった。どれどれ」
母親もカガミをのぞき込んで、びっくりです。
「あれまあ、本当に女が隠れている。でも若い女じゃなくて、ただのおばさんだよ」
「えっ? そんなはずは」
おかみさんは、今度は夫の父親のところへカガミを持って行きました。
「お父さん、見て下さい。うちの人ったら、都から女の人を連れて来たんですよ」
「へえ、どれどれ」
父親はカガミを見るなり、ペコペコと頭を下げて言いました。
「これは、これは、ご先祖さま。ようこそおいでくださいました」
「・・・あれ? おばさんの次は、ご先祖様?」
おかみさんは不思議に思い、もう一度カガミをのぞきました。
するとやはりカガミの中には若い女の人がいて、怖い顔でこっちをにらんでいます。
「まあ、何てずうずうしい女だろう! わたしをにらみつけたりして! お前なんか、こうしてくれる!」
そこでおかみさんは、げんこつでカガミをたたき割りました。
おしまい
※ 日本にも、似たような昔話があります。 → 鏡の中の親父
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