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第184話
お元気で
ラトビアの民話 → ラトビアの情報
むかしむかし、ある貧乏な男が、金持ちの家に忍び込んで馬と馬車を盗もうと考えました。
そして男が金持ちの家に出かける途中で、ちょうど同じ金持ちの魂(たましい)を狙っている悪魔に出会いました。
悪魔は男のたくらみをすぐに見抜いて、男に言いました。
「いいか、よく聞けよ。
おれは魔法で、死ぬまでくしゃみさせ続けさせる事が出来る。
誰かが『お元気で』と言わない限り、そのくしゃみは止まらない。
金持ちがくしゃみで死んだら、おれは金持ちの魂を手に入れるから、お前は馬でも馬車でも盗めばいい。
何かが盗まれれば、金持ちを殺したのは悪魔ではなく、人間の仕業だと思うだろうからな」
「いや、おれは別に金持ちを殺そうなんて」
「いいな!」
「・・・はい」
男は悪魔の計画に、従う事にしました。
二人が金持ちの家に行くと、悪魔が金持ちにくしゃみの魔法をかける為に、先に中へ入りました。
すると間もなく、
「ハックショーン! ハックショーン!」
と、金持ちのくしゃみが始まりました。
金持ちのくしゃみはいつまでも止まらず、息が出来ずにとても苦しそうです。
この調子なら、金持ちはすぐに死ぬでしょう。
窓の外から様子を見ていた男は、盗みをするのも忘れて思わず大声で叫んでしまいました。
「お元気で!」
そのとたん、金持ちのくしゃみが止まりました。
「この、裏切り者!」
魂を取り損なった悪魔は、男に文句を言いながら逃げて行きました。
「おや? 窓の外に誰かいるらしい」
金持ちの声で下男が外に飛び出して、隠れていた男を捕まえました。
金持ちは、男に尋ねました。
「お前は、この家に盗みに入ったのだろう? それなのに見つかると分かっていて、なぜ『お元気で』と言ったのだ?」
「はい、実は・・・」
男は仕方なく、これまでの事を全て話しました。
すると金持ちは自分が命拾いをした事をとても喜んで、男が盗むはずだった馬と馬車、そして土地とお金まで分けてくれたのです。
男はこの事をきっかけに盗みをやめて真面目に働き、とても幸せな人生を送りました。
そしてこの事があってから、この地方ではくしゃみをしている人に出会うと『お元気で』というようになったそうです。
おしまい
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