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第186話

ほらふき男爵 銀のオノを拾いに月へ

ほらふき男爵 銀のオノを拾いに月へ
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 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

 今日は、トルコヘ戦争に狩り出された時の話だ。
 強運で有名なわがはいでも、時には運に見放される事がある。
 わがはいは、うかつにもトルコ兵につかまると、どれいにされてしまったのじゃ。
 どれいのわがはいに与えられた仕事は、トルコ王の牧場のミツバチの見張り番だった。
 日がな一日、ミツバチのお守りをして、タ方になると巣箱へミツバチを連れ戻すという、なんとも冒険家には似合わぬ仕事じゃ。

 あるタ方の事、ミツバチの数をかぞえると一匹だけ帰っておらん。
 そこで行方を探してみれば、二頭のクマが今しも、そのミツバチを食らおうとしているところだった。
 一匹でもミツバチを失うと、後でひどいおしおきが待っている。
 そこでわがはいはとっさに腰へ手を伸ばすと、腰にぶら下げている銀のオノをクマたちめがけて投げつけた。
 ところがオノは狙いをはずして上へ上へと空高くまいあがると、何とお月さまに突き刺さったではないか。
 さいわいクマたちはミツバチを放り出して逃げてくれたが、次はオノを取り戻さなくてはならない。
 だが手を伸ばそうにも、お月さまはあまりにも遠い。
「さて、どうしたものか?」
 考えながらふとポケットに手を入れ、ポケットにトルコ豆を入れていたのを思い出した。
 このトルコ豆ときたら、成長するのがやたらとはやい。
 そこで足元の土にトルコ豆を植えると、トルコ豆はすぐに芽(め)を出し、ツルを伸ばし、あっという間に成長して三日月のはじっこにからみついたのだ。
 おかげでわがはいは、ラクラクとお月さまへ到着した。

 ところがお月さまというところは、どこもかしこも銀色に輝いていて、銀のオノを探すのが一苦労。
 やっとの事で見つけ出し、さて地上へ帰ろうとすると、なんたる事かトルコ豆のツルが太陽の熱で枯れておった。
 仕方なくわがはいは、お月さまで見つけたワラでロープをあみ、それを伝って地球まで降りる事にした。
 だが、ワラのロープは途中で長さが足りなくなってしまった。
 そこでわがはいは、少し降りると用済みのロープをオノで切っては下に継ぎ足し、また少し降りると用済みのロープをオノで切っては下に継ぎ足し、それを何度も何度もくり返して、あと地上まで四~五キロとなった時、わが頼みのロープがぷつんと切れて、わがはいはまっさかさまに大地に激突し、何十メートルも地中深くめり込んでしまったのだ。

 あの時は、本当に痛かったぞ。
 そして深い穴から、どうやってはいあがろうかと腕を組んだ時に目についたのが、生まれて四十年のばし続けていた、わが長づめじゃ。

 わがはいはこれで穴の壁に階段をきざみ、無事に地上へ戻ったのだ。

 『お月さまに行く事があったら、くれぐれも長いロープを忘れずに』
 これが、今日の教訓だ。

 では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。

おしまい

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