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第187話
ほら吹き男爵 白クマとのたたかい
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わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日は、氷山での白クマ退治の続きを聞かせてやろう。
氷山の上には何百頭もの白クマがいたが、白クマが氷山と同じ色だったので、それに気づかず、わがはいは何百頭もの白クマに囲まれてしまった。
「えーい、こうなったら最後の手段だ」
わがはいは、すでに仕留めた白クマの毛皮をナイフではいで、その中に身を隠した。
つまり、白クマに化けたのだ。
そして、そこへ押し寄せてきた白クマの大群に向かって、
ウォーッ!
と、吠えてみせた。
すると白クマたちは、
(なんだ? お前、死んだんじゃなかったのか?)
と、けげんな顔をすると、疑い深く、においをかいできた。
さすがのわがはいも、その時は生きた心地がしなかったぞ。
でもやがて、親分らしい白クマが、
(まあ、無事でよかった)
と、いうように肩を叩くと、仲間が助かったお祝いなのか、その場ですもう大会を始めたのだ。
白クマたちは、あちこちですもうをはじめ、やがてわがはいにも一匹の白クマが、
(さあ、こい)
と、ばかりに両手を広げた。
いくらわがはいが怪力でも、白クマ相手のすもうは遠慮したい。
その時、わがはいの頭に、ある探検家の言葉がよみがえった。
『クマに襲われた時は、クマの首の根元をナイフで突き刺すといい。首すじが、やつらの急所だから』
(ようし、試してやろう)
わがはいは、その白クマに組みつくと見せて、隠し持った右手のナイフを首の根元を突き刺した。
すると白クマは、あっけなく倒れた。
もちろん死んだわけだが、そんな事は知らない白クマたちは、手を、いや、足をたたいてわがはいの勝利を祝福すると、
(じゃ、次はおれが相手だ)
と、次から次へとわがはいに向かってきた。
その度に、わがはいはやつらの首の根元をナイフで突き刺して、ころりころりと一匹残らずしとめたのである。
さて、足の踏み場もないような白クマの死体を乗りこえてボートに戻ったわがはいは、待機していた探検船にこぎつけて再び氷山に引き返すと、乗組員を総動員して白クマの皮と肉を船に運び込んだ。
その夜、わがはいは乗組員たちに白クマ汁をふるまって、おおいに喜ばれた。
ところが、問題は白クマの毛皮の処分だった。
わがはいは、
「まずは、船長であるあなたからどうぞ」
と、フィップス船長に敬意を表して、一番上等なのを選ばせると、
「あとは、わがはいをはじめ乗組員が一着ずつ選び、残りはイギリスで売って山分けにしましょう」
と、言った。
これこそ、誰からも文句が出ない方法だと思ったのに、
「それは困る」
と、けちなフィップスは、たちまち不愉快そうに言ったのだ。
「確かにこの獲物は、きみの力によるものだ。
しかしそれも、わしの探検船があればこそ出来た事だ。
毛皮の処分は、全て船長たるわしにまかせてもらいたい」
そしてそれどころか、
「全く、こんなに重たい獲物を積んでは、船が沈没するかもしれん。やれやれ、これはとんだ災難だ」
と、ぐちをこぼしたのだ。
災難と言うのなら、毛皮を海へ捨てれば良い。
フィップスは、まるでわがはいが悪い事をしたかのようにぼやいて、そのままイギリスに引き返した。
そして白クマの毛皮は、あちこちの王室ヘプレゼントをして、探検家としての自分の株を大いにあげたのだ。
そしてこれは後で聞いた事だが、フィップス船長は、
「ミュンヒハウゼンくんは白クマの皮をかぶって白クマをだまそうとして失敗したが、わしはそのまま白クマの群れに入っていき自分を白クマだと思わせる事に成功したんだ」
と、いばったそうだ。
この話を聞いて、わがはいは思わず吹き出した。
それはつまり、フィップス船長の顔が白クマそっくりだという事を、自分で証明したことになるではないか。
まあ、そんなわけで、どんな北海探検史の白クマ退治のページを開いても、わがはいの名前はのっていない。
でも、それはそれで構わない。
少なくとも、きみたちはわがはいの活躍を知っているし、わがはいのこの奥ゆかしさが、いずれ美談として語られるのだから。
今日はこの奥ゆかしさを、教訓にしておこう。
では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。
おしまい
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