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第188話
ほら吹き男爵 大氷河の白クマ
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わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。
きみたちは、キャプテン・フィップスの有名な北海探検旅行話を、知っておるかな?
実はその時、わがはいもフィップスのお供をしたのだ。
えっ? 初耳だって。
それは、そうだろう。
その時のわがはいの活躍ぶりを話すと肝心のフィップスの影が薄くなるので、奥ゆかしいわがはいは今まで誰にも話さなかったのだから。
さて、わがはいたちの探検船は、北海を北へ北へと進んだ。
わがはいは船の船先に立ち、望遠鏡を目にあてて、たえず前方をにらんでいた。
氷山にでもぶつかったら、このちっぽけな探検船などひとたまりもないからな。
するとまもなく船の行く手に、わがはいたちの船のマストの数倍も高い大氷山が浮かんでいるのを発見した。
「おーい、氷山だぞ。気をつけろ!」
わがはいは運転士に注意を与えたが、その時、氷山の上で何か白い物がもつれあっているのに気がついた。
「おや? あれは、何だろう?」
望遠鏡のピントを合わせると、大きな白クマがすもうをして遊んでいるではないか。
「船長。あの白クマを捕まえに、ちょいと行ってきます」
わがはいはフィップス船長にことわって、鉄砲を片手にボートに乗り移り、氷山めがけてこぎ出した。
ところが、それはちょっとどころではなかった。
望遠鏡でのぞいた時には、ほんの近くに見えた氷山だが、いざボートをこぎ出してみると、これがなかなかに遠かったのだ。
そしてやっと到着して登りはじめると氷山は鏡の様につるつるしていて、二歩登っては一歩すべり、三歩登っては二歩すべるといった調子だ。
やっと氷山の上にたどり着いた時は、さすがのわがはいもへとへとにくたびれ果てた。
だが白クマたちの姿を見ると、わがはいの疲れはいっぺんに吹き飛んだ。
なんと美しく、なんと暖かそうな毛皮だろう。
「よし、わがはいのコートも古くなったし、こいつらの毛皮をはいで新品を作ろう。わがはいが一着、フィップス船長が一着、そして肉はクマ汁にして今晩のごちそうだ」
わがはいは、わくわくしながら白クマたちに鉄砲の狙いを定めた。
そして引き金を引こうとした瞬間、わがはいはつるりと足をすべらせると、固い氷に頭をぶつけて気を失ってしまったのだ。
ああ、わがはいとした事が、何たる不覚。
やがて、
ウォーッ!
ウォーッ!
と、ものすごいうなり声に気がつくと、わがはいのすぐ目の前で、さっきまで仲よく遊んでいた二匹の白クマが取っ組み合いの大げんかを始めたのだ。
そのうちに一方が相手を地面にたたきつけると、負けた方は悲しげな顔をして向こうへ行ってしまった。
そして勝った方のクマは、まだ頭がぼーっとしているわがはいに近よってきたと思うと、わがはいの肩に足をかけてコートを脱がそうとするではないか。
わがはいは、やっとさっきのけんかの理由がわかった。
勝った方が、わがはいのコートをもらう事になっていたのだ。
冗談じゃない。
やつらの毛皮でコートを作ろうと思って来たのに、反対に、こっちのコートを取られてたまるものか。
わがはいはとっさにポケットからナイフを取り出すと、白クマのやわらかい足の裏の肉を切り取ってやった。
この攻撃には、白クマもびっくり。
ウォーッ!
恐ろしいうなり声をたてて、白クマは逃げ出した。
こうなれば、もうこっちのものだ。
わがはいは、素早く鉄砲を拾うと、
ズドーン!
と、おみまいした。
そして鉄砲の玉は見事に命中して、白クマは地ひびきをたてて倒れた。
「うまくいったぞ」
わがはいは思わず小おどりをしたが、まさか、わがはいの一発の銃声が何百という白クマを呼んでしまうとは思わなかった。
「なんと! 白クマはこんなにもいたのか?!」
白クマたちは、わがはいを見つけると、
(なまいきな、人間め)
(仲間のかたきを、うて)
と、ばかりに、四方八方から襲いかかってきたのだ。
「これはまずい!」
これだけの数だと鉄砲の玉も足りず、このままではコートを取られるどころか白クマのえじきになってしまう。
絶体絶命とは、この事だ。
さて、これからわがはいの活躍が始まるのだが、もう遅いので続きはまた今度にしよう。
今日の教訓は、『氷山の上で白クマ狩りをする時は、その数に注意しよう』だ。
白クマがなぜ白いかと言うと、雪や氷の上で自分の姿を見えにくくするためだ。
保護色というやつじゃな。
これを忘れていたわがはいは、これから何百頭もの白クマを相手にしなければならないのだ。
きみたちも、氷山の白クマには注意をするように。
おしまい
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