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第195話



二羽のハト
ロシアの昔話(クルイロフ童話)　→　ロシアについて

　むかしむかし、あるところに、二羽のハトが住んでいました。
　二羽はとても仲良しで、空を飛ぶ時も、エサを食べる時も、眠る時も一緒です。
　そして、うれしい事や悲しい事も、半分ずつわけあうのです。
　ところが、ある日、一羽のハトが、こんな事を言い出しました。
「ぼく、遠い国へ行ってみたいなあ」
　それを聞いたもう一羽のハトは、丸い目を大きく見開いて言いました。
「どうして、急にそんな事を言い出すんだい？　きみは、ぼくと一緒にいるのが嫌になったのかい？」
「いや、そうじゃないよ。ただ、知らない国へ行って、色々な珍しい物を見たくなっただけなんだ。だって、せっかくどこまでも飛んでいける羽を持っているんだよ。いつもいつも同じ場所で暮らしているなんて、もったいないじゃないか」
「気持ちはわかるけど、それは危険な考えだよ。確かに、知らない国には珍しい事もあるだろうけど、どんな恐ろしい目に会うかもしれないだろ。それに、もし、きみが行ってしまったら、ぼくは心配で心配で、たぶん夜もねむれないだろう。きみが怪我でもしていないだろうか？　君がお腹を空かしていないだろうか？　恐ろしい動物に襲われていないだろうか？　雨や風を無事にしのいでいるだろうか？　そんな風に心配ばかりして、ぼくは病気になってしまうかもしれないよ」
　そう言って友だちのハトは、ポロポロと涙をこぼしました。
　けれど、相手のハトを止める事は出来ませんでした。
「泣くなよ。きみがそんなに心配するのなら、三日間だけでいいよ。三日たったら大急ぎで帰ってくるよ」
「本当？　本当に三日たったら帰ってくるの？」
「ああ、約束するよ。きみは何も心配しないで、ぼくの土産話を楽しみに待っていてくれればいいんだ」
　そういうと、あっという間に高い空へ飛び立っていきました。
「やっほー！　なんて世界は広いんだ！　青い空と白い雲が、どこまでもどこまでも続いているぞ！」
　旅立ったハトは、初めて飛ぶ世界に大喜びでしたが、太陽が沈みかけた頃、友だちが心配していた事が、本当に襲ってきました。
　晴れ渡っていた空が、突然黒い雲に被われると、
　ゴロゴロゴロー！
と、激しい雷と雨が、ハトを叩き落とすかのように降ってきたのです。
「わあーっ、大変だー！」
　ハトは必死になって、隠れ場所を探しました。
　そしてようやく一本のかしの木を見つけたので、ハトはそのかしの木の何に飛び込むと、ブルブルと震えながら恐ろしい嵐が通り過ぎるのを待ちました。
　やがて朝になると、嵐はどこかへ去っていき、太陽が輝き出しました。
「ああ、助かった。しかし、お腹が空いたな」
　ハトが周りを見渡すと、運よく、森のあき地にたくさんの小麦がまいてあるのが見えました。
「やったー。ごちそうだー！」
　ハトは喜んでそこへ降り立ったのですが、でも、その小麦をついばんだとたん、ハトはアミにかかって動けなくなってしまいました。
　それは、村人の仕掛けた罠だったのです。
「大変だ！　捕まってしまったぞ！」
　ハトは、夢中でもがきました。
　さいわい、そのアミは古いアミだったので、ハトは何とかアミを食いちぎって逃げる事が出来ました。
　でも、もがいたはずみにハトは足をくじき、翼も傷だらけです。
「痛いけど、速く逃げないと、人間につかまってしまう」
　ハトは空腹と傷の痛みを我慢しながら、再び空へ飛び出ちました。
　しかし今度は、ハゲタカが襲いかかってきたのです。
「逃げろ！　逃げろ！」
　ハトは、何とかハゲタカの攻撃をかわしました。
　しかし今度は、ハゲタカよりももっと怖い鳥のワシがやってきたのです。
「もっ、もう駄目だ！　ハゲタカはともかく、ワシからは逃げる事が出来ないよ！」
　ハトは死を覚悟しましたが、でも幸運な事にワシとハゲタカはハトを奪い合って激しい戦いを始めたのです。
「今だ！　今のうちに逃げるんだ！」
　ハトはこの隙に、ありったけの力をふりしぼって逃げました。
　逃げて逃げて、何とか人家の石垣にたどり着いたのですが、今度は人間の子どもに見つかって、
「わーい、ハトがいるよ。石をぶつけて捕まえよう」
と、子どもに石を投げつけられたのです。
　石はハトの目のふちに当たり、目がつぶれそうになりました。
「なんという事だ。友だちの言った通り、知らない国には危険ばかりが待っていた。こうこりごりだ。はやく帰ろう」
　ハトは目の痛みをこらえながら、やっとの思いで友だちのもとへ帰りついたのでした。
　傷だらけのハトを見た友だちは、一生懸命にハトの看病をしました。
「かわいそうに、こんな目にあわされて。でも、もう大丈夫だからね」
　友だちの看病に少しずつ元気になってきたハトは、友だちの手をにぎりしめて言いました。
「今度の旅で、ぼくは、愛する人や友だちのそばよりすばらしい所はないという事がよくわかったよ。その、その当たり前だけどもっともすばらしい幸せに気がつかなかったなんて、ぼくはなんて馬鹿だったんだろう。もうどこへも行かないよ。いつまでも、ここできみと暮らすよ」

　このハトの言葉の様に、平凡だけれど愛する人や友だちのいる場所が、一番良い場所なのです。

おしまい