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第205話
野菜作りの名人
ロシアの昔話(クルイロフ童話) → ロシアの情報
むかしむかし、ロシアのある国に、とても働き者の百姓がいました。
百姓はキュウリ作りが得意で、自分の持っている広い畑は、全部キュウリ畑です。
この百姓の隣の家には、一人の学者が住んでいました。
この学者は何をするのも、本を読んで調べるのです。
「どれ、わたしもキュウリを作ってみるかな」
ある日、畑へ出かけた学者は、キュウリの種まきをしている隣の百姓をあざ笑いました。
「やあ、あいかわらず汗水流してがんばっとるね。しかし、畑仕事も学問と同じで、知識が物を言う。知識を持ったわたしの畑なら、あんたの畑の何十倍ものキュウリがとれるだろう。まあ仕方ない、あんたはたしか、ろくすっぽ学問をしていないのだから」
それを聞いた百姓は、種をまく手を休めずに答えました。
「たしかに、学問はしてねえ。何しろ、畑仕事が忙しくて、そんなひまもなかったからな。だけど、知識が無くても一生懸命頑張れば、必ず成果が出る。言ってみれば、よく仕事をする事が、わしの学問ですわ」
この答えに、学者はカチンと来ました。
「なんだって! それじゃ、あんたは本を読んだり調べたりする学問には、反対するのかね」
「いいや、そうじゃない。わしだって、自分の為になるなら、学問をしねえわけじゃない。だが、学問をするには、よっぽどひまじゃないとね」
百姓は種まきを終えると、はじめて顔をあげて、学者の畑を見ました。
「おや、だんな、あなたの畑は、まだうねの掘り返しもすんでないじゃありませんか」
「いや、あわてる事はない。畑をたがやすには、くわがいいか、すきがいいか、それとも、シャベルがいいか、本で調べている所だ」
「ふーん。しかし、何を使うにしたって、畑仕事には時期があります。それを逃すと、立派なキュウリは出来ませんぜ」
百姓はそう言って、帰って行きました。
「ふん、無学な百姓が、負け惜しみをいいくさって。最後に勝つのは、学問さ」
学者は、ようやく畑をたがやす道具を決めると、本や参考書を調べながら、種まきをはじめました。
やがて学者の畑から、キュウリが芽を出しました。
けれど学者は、別の本で新しい野菜作りの方法を見つけると、そのたびに畑を堀りなおして、苗を植えかえました。
「いい方法が見つかると、それを実行するのが学問だ。そうやって、より良い方法を見つけるのだ」
学者は得意顔でしたが、でも結果はと言うと、隣の百姓のキュウリは山のようにとれたのに、学者の畑からは一本のキュウリもとれなかったのです。
いくら知識があっても、実際に経験している人にはかなわないというお話です。
おしまい
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